Bella Notte
 「あのキスで桜井……ううん、優斗への気持ちに気づけたんだ」
 そう言って柔らかく笑うと、藤ちゃんは少し驚いた様子。

 「じゃあ、桜井センパイとお付き合いする事になったんですね」
 幾分かほっとした表情を浮かべていている。

 「だから、ありがとう。藤ちゃん」
 そう言うと、少しだけ傷ついたような表情を浮かべた。
 「そうですか……」
 藤ちゃんはアイスティーのグラスの水滴を指でそっとなぞりながら。
 何かを振り切った様に笑って。

 ちょうど注文したエッグス・ベネディクトが目の前に運ばれてきた。
 「美味しそうですね」
 その声は、どこか無理に明るさを装っているようで、楓はそれに気づいていた。

 「藤ちゃん……」
 
 楓がそっと声をかけると、藤田は手を止めて、少しだけ目を伏せる。
 
 「大丈夫です。ちゃんとわかってますから。先輩が幸せなら、それでいいって……そう思えるようになりたいです」

 楓は、胸の奥が少し痛むのを感じながら、静かに頷いた。

「そう言ってくれて、嬉しいよ。藤ちゃん、ありがとう」

 藤田は、少しだけ笑って言う。

「……やっぱり優しいですね。あんなに強引に奪ったのに。でもそんな先輩だから好きになったんだと思います」

 楓は何も言わず、ただその言葉を受け止めながら。
 波の音が、遠くで穏やかに響いていた。

 食事中からホテルへの帰り道の間。
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