Bella Notte
 そして、鏡で全身チェック。

「……大丈夫。」

 笑顔でそう、暗示をかける。
 昨日から準備している、差し入れのスペシャルドリンクは冷蔵庫の中。

 井川君の名前を控えめに刺繍したタオルもバックに詰めて。
 今日こそは、友達から一歩踏み出したい。

 階下(した)で待ってる桜井を思い出して、慌てて階段を降りた。

 奴はすでに外へ出ているようで、姿が見えず。
 慌てて冷蔵庫からドリンクを取り出し、お気に入りのスニーカーを履いた。

「行ってきます」

 控えめに声をかけて玄関のドアを開く。
 私の自転車が故障してて、泣く泣く桜井の自転車に2人乗り……。

 学校や警察に見つからないか気が気じゃない。

 夏の朝の少しだけ涼しい空気がとても気持ちよくて、思わず深呼吸してしまう。
 丘の上からの坂道をスピードを上げながら走る自転車。

 新緑の木々がザワザワと音を立てながら揺れている道を抜けていく。
 カーブに差し掛かると視界が開けて、潮風が頬を撫でた。

 朝日に輝くエメラルドグリーンとコバルトブルーのグラデーションが美しい海が眼下へ広がる。

(今日も、元気だよ)

 少しだけ、感傷的になりながら、海の上にいる大好きな父へ向けて挨拶をする。

「今日も、いい潮風だな」

 くしゃくしゃの笑顔で少し振り返りながら桜井がそう言う。
 思わず心が跳ねて嬉しくなった。

「うん」

< 35 / 198 >

この作品をシェア

pagetop