Bella Notte
 おまけに割り当てられた仕事がかなり暇なもので。

 間がもたないと思ったオレは窓辺で寝たフリを決め込んだ。

「頑張り屋さんだもんね。本当にお疲れ様」

 楓の優しくてホッとする声が側で聞こえてくる。

 昔からそうだ、楓はいつも『オレ』を見てくれてる。
 それにこうやって褒めてくれるのなんていつぶりだろう。

「それからこの前はありがとう」

 嬉しくてくすぐったくて思わず口元が緩みそう。
 そうやって何とか耐えている。

「あの、桜井君いますか?」

 知らない女子の声が聞こえてくる。
 ぁあ、至福の時間は長くは続かない。

 寝たフリをして無視する事も出来るけど、そうなると楓が対応に困るだろう。
 仕方ないので、大きく伸びをして気持ちを切り替える。

 起たんだ?と楓の声を背に受けながら。
 表の笑顔を貼り付け、桜井君の顔をして。

 でも、正直疲れる。

「えっと、何か困り事でも?」

 名指しで来たという事は、本部自体に用ではないと分かっている。
 念のため聞いてみる。

「いえ、大切なお話が。ここではちょっと」

 見知らぬ女子がもじもじしながら小さな声で答える。

「ごめん、楓。少し出てくる。」

 本当は楓の側で優しい時間を過ごしたいのに。

「それで、何かオレに用かな?」

 しばらく歩いて人気のない渡り廊下で振り向いた。

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