Bella Notte
 そう言って私の左手手首を掬い取り、赤くなった跡に優しく口付ける。

「なぁ、さっきの奴ら、どうして楓の所に来たと思う?」

 口付けたままで私の瞳を捉えて離さない桜井。
 戸惑っている私は何も言えず、首を横に振って分からないと瞳で訴える。

 後ずさりたいのに、足は動いてくれず。

「お前が、綺麗で魅力的すぎるから、きっと惹かれたんだよ。あの人達」

 少し強めの風が1度だけ2人の間を吹き抜けて行った。

「楓、お前はもっと自分を分かった方がいい。じゃないと、俺は———-」

 そう言いながら、桜井は胸元に私を抱き寄せる。

『俺はいつまでもお前の側で守れる訳じゃないから』

 優しく抱きしめられながら耳元でいつかの様に囁かれた。
 桜井の腕の中はあの頃と違って大きくて逞しい。

 暖かさと少し早い鼓動だけが変わらない。
 鼓膜を甘く刺激するバリトンボイス。

 甘く切ない声を吐息混じりに耳元で囁かれると、桜井はとっくに大人の男性なのだとイヤでも実感させられて。
 胸が高鳴り始め頬に熱が集まる。

「もし知らない奴にこんな風に抱きしめられても、抵抗なんて出来ないだろ?」

 そう言って、抱きしめた腕を緩めて見つめる桜井の瞳に捉えられるとひどく落ち着かない。

 整った眉に綺麗な二重の瞼、茶色がかった綺麗な瞳。
 鼻筋は通り薄くて形の良い唇。

「楓、ドキドキした?」

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