Bella Notte
「どこにも行かないから」

 いつも側で聴く、懐かしいこの声は。
 重い瞼を何とか持ち上げて、声のする方へ視線を流した。

 泣きそうな顔をして、私を見つめる桜井がいた。

「……桜井……」

 身体を起こそうとするとすかさず。

「そのまま寝てていいから」

 声をかけてくれて、優しく桜井の両手で包まれている右手がすごく暖かくて安心する。

「ねぇ、何で桜井が泣きそうな顔してるの」

 だんだんと視界がぼやけ始める。

「……気のせいだろ」

 桜井がそんな顔するから、私までつられて……。

「桜井、どうしよう、健人くんが変なこと言って……」

 そこまで発した唇を桜井の指先が優しく封じてきて、それでもぼやけた視界は、元には戻らなくて。
 頬に温かい雫が数滴流れ始める。

「楓、俺、いつまでもお前の側にいるから」

 そう言って、手をしっかりと握ってくれた。

「お前が幸せだって思えるまで、ずっと側に」

 いつになく優しい声、暖かな瞳で見つめられて、大きな手で優しく頭を何度もなでてくれた。
 私は何も言えないまま、ただ頷いて。

「桜井、ありがとう」

 そのまま、また闇の中へ意識を手放した。

「桜井……」

 ふと、目を覚ますとソファの上で、猫の様に毛布にくるまって寝ていた事に気づく。
 和室の仏壇には、母と父の写真が笑っていた。

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