Bella Notte
 ただそれだけなのに、心臓が変に跳ねて落ち着かなくなる。

(来るのか……)

 本格的に、桜井と顔を合わせる前に二次会から早めに抜け出そうと、あれこれ考えを巡らせて。

 明後日までオフで、今週末夜の便のアメリカへのフライトスケジュールが入っているので、明後日の夕方には発つ予定だった。
 明日の朝の便に振替しようかと本気で考え始めている。

 始発便が7時過ぎだったから、この町を6時頃に出発すれば、間に合う。

 早速スマホアプリで予約確認をしながら、そんな事を考えて。

***
 

 ―――― 囲んでいた女性たちを何とか振り切って、披露宴のあったホテルの最上階の部屋へ避難してきた。
 
 大きな一枚窓の側にあるソファーへ身を沈め盛大なため息を1つ。

 本当は実家に帰りたいけれど、職業柄、騒ぎになるのは目に見えている。
 だから最近は、家族と海外旅行を兼ねて交流している。

 先程頼んだホットコーヒーを一口飲むと少しだけ落ち着いてきた。
 眼下には日没後の薄明かりに浮かび上がる美しい入り江が広がり緩く弧を描く水平線を時を忘れて眺め続けた。

 仕事の都合をつけたから、明後日の夕方楓と一緒に東京へ帰る約束をしていた。

 それどころではなくなってしまったと孤りで考えていれば、長谷川からメッセージが来て今すぐ楓の実家に迎えに行け、と。

 通知画面の『楓』の文字に、気怠い体を起こし、スマホを手に取り画面をタップする。

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