Bella Notte
 「……ん……」

 窓から差し込む朝日が柔らかく部屋を照らして私の瞼を持ち上げさせる。

 人肌の心地よい暖かさに包まれて微睡みながら、寝返りを打とうとすると何故か、身動きが取れない。

「……重い……?」

 素肌に心地の良い寝具の感触が、ダイレクトに感じられる。
段々と意識が覚醒してくれば、シックなインテリアが視覚に入ってきて実家ではないと理解し始める。

(昨夜は2次会で、それで、海辺へ散歩に行って……)

 自分の体に絡みつく逞しい腕と厚い胸板の持ち主がもう誰か分かっているけれど、分かりたくない複雑な心を何とか抑え込んで。

(ホテルのベッドの中って……)

 恐る恐る、上半身裸で隣に寝ているその人の顔を見上げてみた。
「……っ桜井……」

 それ以上は何も言えずに、固まるしかない。
 途端に月光に照らされた海辺のBella Notte(美しい夜)の出来事が一気に胸をいっぱいにして、自分でも分かるくらい、全身発熱し始めている。

『好きだ』

 そう熱を孕んだ大人の男の瞳で射抜かれて、大きな体に包まれながら……。

(ちょっと待って、あのキスの後の記憶が無いんだけど。それに好きだって、いったい、いつから?)

 一気にせわしなく頭の中を疑問が駆け巡り、また酒に酔ってしまい失態を演じてしまったのかと、落ち込みつつ。

 とりあえず心を落ち着けるには着替えて、実家に戻らなくては。

 この心臓に悪い状況では、落ち着いて考えられない。

 ふと、力を失って重りと化していた腕が、もぞもぞと動き出して。彼の目覚めが近い事を知らせてくれる。

 その腕の中からそっとすり抜けようと……。

「……楓、おはよ」

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