Bella Notte
「昨日は、あれから大波に呑まれてずぶ濡れで、ドレスも何もかも脱がせたんだけど。体がベタつくと思うから、シャワーを先にどうぞ」
 
 私が混乱していると昨夜の顛末を教えてくれるらしい。
 お礼を言って、差し出されたバスローブに身を包ませた。

「そういえばあの絡んできた男は、追い払っておいたけど、大丈夫だった?」
 
 その言葉に思わず桜井の方を振り返ると、鋭い視線に捉えられて身動きができない。

「うん、井川君の職場の上司の方で、男の人たちから囲まれたときに助けてもらっただけ。今度お礼を言っておかないと」

 そう言えば。
「オレが言っておいたから大丈夫。楓はもうかかわらないで」
 少し拗ねた様子で応えてくる。

 楓がバスルームへ消えていく後姿を見送った後。
 盛大にため息をついてベッドへ勢いよく身を沈める。

「ガッつきすぎだろ」

 自分の堪え性のなさに、自嘲した。

 ここは紳士的にじっくりと外堀を埋めつつ落とすつもりだったのに。
 楓を前にするとそんな余裕はどこかへ消え去ってしまう。

 このまま抱いて、既成事実を作ってしまっても良かったのかもしれない。

 もし、楓が俺の事をそんな風にみてくれないのだとしたら、と急にそんな考えが浮かんで。

 それでも大切に(いつく)しんで、幸せにする自信はある。

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