ダイヤの首輪─先生の歪んだ愛に囚われて─
 心臓が止まりそうになった。

 どうしてここに……?
 こんな遠い本屋に、こんな時間に?

「こ、こんばんは……」

 また目を逸らしてしまう。

「また目を逸らすんだね」

 ヤバい、露骨すぎた……。

「すみません、人と目を合わせるのが苦手で……」

 そっと、先生の目を見た。
 先生の瞳の奥は暗くてよくわからない。
 それを見た瞬間、また動けなくなってしまう。

「こういうの読むんだ」

 先生が、私の手に取った小説をじっと見ている。
 その視線が、まるで私の心の中を覗き込むようで、居心地が悪い。
 本のタイトルを見ているというより、私の趣味を品定めしているような——

「恋愛小説か」

 片方の口角が、少しだけ上がった気がした。
 その微笑みには、どこか嘲笑のようなものが混じっている。

「こういう恋愛に、憧れてたりするの?」

「いえ……好きな作家さんの新刊なので。内容にそこまで強いこだわりがあるわけじゃないです」

 先生は、私の反応を確かめるように見ていた。

「俺は、もっと水島のことを知りたい」

 ——え?

 驚いて顔を上げた瞬間、先生の顔がすぐ目の前にあった。

「教えてよ」

 びっくりして、思いきり後ずさる。
 その時、先生は突然、人が変わったようにニコッと笑った。
 高校時代の、あの作られたような優しい笑顔。

「ごめん、水島の反応が面白くて。調子に乗った。じゃあ、帰り気をつけてね」

 まるで何事もなかったかのように、先生は持っていた雑誌をレジに持って行き、そのままスッと消えた。
 暗闇の中に。

 ……なんで、あんな目で見るの?
 なんで、私の心を揺さぶるの?
 なんで、最後は何もなかったような顔をするの?

 私は、その場に立ち尽くしていた。

 それでも。

 不思議なことに——

「会えて嬉しい」と思ってしまう、この矛盾した気持ちが、私の中に確かにあった。
 怖いし、理解できないし、振り回されてばかり。
 なのに、なぜか心の奥が満たされている。

 これって、恋……なの?
 私が思い描いていた恋とは、まるで違った。
 もっと甘くて、もっと優しくて、もっと分かりやすいものだと思っていたのに。

 これは恋なのか、それとも別の何かなのか——
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