疎まれ令嬢の一途な政略婚
「伊千夜さん! すみません、遅くなってしまって」
瀬戸口さんの声が聞こえて、少し離れたところからこちらに駆け寄ってくる彼の姿が見えてホッとする。どうやら瀬戸口さんも私を探してくれていたようで、少し息を切らしていた。
「いいえ、私もさっき来たところでしたから」
瀬戸口さんを見つけられなかったのは私も同じだから、彼だけが謝る必要なんてない。あの時に渡された名刺を持って来てれば、と一人で反省していると……
「浩晴との電話の時に、今日の待ち合わせ場所の目印を決めておくべきでした。伊千夜さんに連絡をしようと思ったのですが、貴女はスマホを持っていないと聞いたので」
「……えっと、そうなんです。すみません」
もちろんそんな事はない、自分で支払うからと連絡用にスマホは持たせてもらっている。けれど兄が瀬戸口さんにそう言ったのならば、それは黙っておいた方がいいと判断した。
でもどうしてスマホを持っていないことにしたのだろう?
もしかして瀬戸口さんが直接的に私と連絡を取ると、兄にとって何か都合が悪いかったりするのかもしれない。
大事な何かを隠しながら、兄はこの縁談を進めようとしている気がして……胸の中の不安が、だんだん大きくなっていく。それでもこの話を無かったことには出来なくて、あえてそれに気づかないふりをしてしまっていた。