疎まれ令嬢の一途な政略婚

「すみません、こんな荒れた手なので瀬戸口(せとぐち)さんも驚かれましたよね」

 もちろん庭の手入れの所為もあるが、私はあの屋敷でお手伝いさんと一緒に家事をすることも多い。毎晩しっかり手入れをしていても、この手が他の社長令嬢のように綺麗なはずもなく。
 バレてないなんて思っていた自分が恥ずかしい。瀬戸口さんは優しいから、それについて口にしなかっただけだったんだって。

「いいえ、俺の方こそすみません。正直、初めにお会いした時に不思議に思っていたので。でも……伊千夜(いちよ)さんの事が、また一つ知れて良かったです」
「そうなのですか? でも私も、瀬戸口さんの事をもっと知れたらと思ってます」

 私の事を知りたいだなんて、初めて言われたかもしれない。自分の事を話す機会はほとんど与えられることなく、言われた通りに従う事ばかりの人生だったから。
 そんな関係でしかなかったあの家の中で、私の事を知りたがる人なんていなかったもの。なのに、瀬戸口さんはそう思ってくれるんだってことが……凄く嬉しい。

「いや、初々しい会話ですね。お邪魔をしてはいけないと思ったんですが、料理が冷めてはいけないので」
「真壁(まかべ)オーナー! 貴方はまたそういう事を……」

 ほのぼのした雰囲気の中、いきなり現れた真壁さんに揶揄うように言われてしまって。瀬戸口さんが慌てる姿がよほど楽しいのか、きっとわざとなのでしょうけど。
 そんな二人のやりとりがとても楽しくて、思わず『ふふふ』と笑ってしまう。

< 28 / 30 >

この作品をシェア

pagetop