疎まれ令嬢の一途な政略婚
「すみません、こんな荒れた手なので瀬戸口さんも驚かれましたよね」
もちろん庭の手入れの所為もあるが、私はあの屋敷でお手伝いさんと一緒に家事をすることも多い。毎晩しっかり手入れをしていても、この手が他の社長令嬢のように綺麗なはずもなく。
バレてないなんて思っていた自分が恥ずかしい。瀬戸口さんは優しいから、それについて口にしなかっただけだったんだって。
「いいえ、俺の方こそすみません。正直、初めにお会いした時に不思議に思っていたので。でも……伊千夜さんの事が、また一つ知れて良かったです」
「そうなのですか? でも私も、瀬戸口さんの事をもっと知れたらと思ってます」
私の事を知りたいだなんて、初めて言われたかもしれない。自分の事を話す機会はほとんど与えられることなく、言われた通りに従う事ばかりの人生だったから。
そんな関係でしかなかったあの家の中で、私の事を知りたがる人なんていなかったもの。なのに、瀬戸口さんはそう思ってくれるんだってことが……凄く嬉しい。
「いや、初々しい会話ですね。お邪魔をしてはいけないと思ったんですが、料理が冷めてはいけないので」
「真壁オーナー! 貴方はまたそういう事を……」
ほのぼのした雰囲気の中、いきなり現れた真壁さんに揶揄うように言われてしまって。瀬戸口さんが慌てる姿がよほど楽しいのか、きっとわざとなのでしょうけど。
そんな二人のやりとりがとても楽しくて、思わず『ふふふ』と笑ってしまう。