傷だらけのシンデレラ 〜再会した元恋人は溢れる愛を押さえきれない〜
「その格好で電車で帰るのは難しいでしょうから」


そう言われて、自分の今の格好に気がつく。

夕方まで降っていた雨による水たまりの上で揉み合ってせいで服への泥はねがひどく、しかも靴が片方ない。


たしかに、こんな格好で電車に乗っていたら怪しまれる。

ここは言われた通り、タクシーで帰ったほうがいいのかもしれない。


「そ、それでは…お言葉に甘えて」


わたしが顔を隠しながら会釈をしてタクシーに乗り込むと、男性がなにかを差し出してきた。


「これ、足しにしてください」


見ると、それはシワのない1万円札。


「い…いただけません、こんなもの…!」

「そう言わず。僕が無理やり乗せたんですから」


男性はわたしの手を取ると、勝手に1万円札を握らせた。


「でしたら、後日必ずお返しします!」と言おうとしたのだけれど、わたしはその言葉をぐっと飲み込んだ。


また会うようなことになってはいけない。

せっかく、“彼”はわたしの存在に気づいていないのだから。


「ご親切に…ありがとうございます」


わたしはぎゅっとお札を握りしめた。


まさか、こんなところで会うとは思ってみなかった。
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