13年後に再会した幼馴染と愛され生活始めます。
 賢吾は憑き物を祓ったような笑顔で帰って行った。
 手を振って見送ると、私も肩で息を吐く。口に出してしまえば、決意は意外なほど簡単に固まるものだ。

 シャワーを浴びると体も心もスッキリした。
 今ならなんでも出来そうな気がする。
 日中は出来なかった課長の電話対応。掛け直す気にはなれなかったが、メッセージは送れた。
 突然の入院で仕事が中途半端になってしまった件に対し謝罪をし、退院したら話がありますと続けた。
 読んでもらえるか……もし読まれなくても辞表は出そう。
 無理矢理辞めていった社員の中には、夜逃げのように突然姿を消した人もいた。最悪、自分もそれだと美澪は思った。
 穏便に済まないのは容易に想像できるが、自分には賢吾が付いている。そう思えば心強い。
 課長からの不在着信と、美澪を罵倒する言葉が綴られているメッセージは全て削除した。
 もう、怖くない。怯える必要なんてないと、自分を励ます。

「負けない。自由を手に入れるんだ。あの子のためにも」
 守りたい人がいるのは、美澪も同じだから。

 翌日、賢吾が買ってきてくれたファストファッションのワンピースに袖を通す。
 少しサイズが大きいのは、入院生活で痩せてしまったのだろう。
「でも、悪くないじゃん」
 この後、海堂との食事を控えている。
 柔らかくふんわりと広がるスカートに、淡い色のカーディガン。この服装で海堂の隣に立つとデートみたいだ。
 下着はシンプルなものだったが、このワンピースは賢吾の好みな気がする。
 パンプスを履き、ナースステーションを訪ねる。

 綾瀬が気付いて直ぐに来てくれた。
「乙部さん、素敵なワンピースですね」
「同僚が準備してくれたんです。私には似合ってないでしょう?」
「そんなことないですよ!! 同僚なんて言って、本当はこの後デートなんじゃないですか?」
 デートろ言って良いのかは判断しかねるが、相手は賢吾ではない。
 海堂は美澪との関係を綾瀬に話していないらしい。
 適当に誤魔化して笑って見せたが、きっと賢吾とデートだと勘違いされていそうだ。

「それより、入院費の支払いを済ませようと思ったんだけど」
「あれ? 会計の人からもう済んでるって聞きましたよ」
「そんなはず……だって私、今から行こうと思って……」
 綾瀬も気になって内線で確認してくれたが、やはり支払いは済んでいると言われたようだ。
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