色褪せて、着色して。~黒薔薇編~
 スペンサー侯爵家で暮らすことになっても。
 やることは、変わりない。
 食事を取った後は、ただひたすらピアノを弾き続けることだ。

「ただいま戻りやした~」

 トペニたちが戻って来たのは夕方だった。
「おかえりなさいま…、スズメ様!!」

 玄関からバニラの悲鳴が聞こえて来たので。
 手を止めて玄関に向かうと。
 トペニとスズメは顔面血まみれ。
 制服はぼろぼろ。
 さらにスズメは意識がないのか、トペニが肩を貸して。
 なんとか戻って来たようだ。
「いますぐ手当てを」
「ああ、汚れるんでとりあえず、ここで…」

 見学に行っただけなのに。
 どうして怪我をしているのか。

 トペニはよいしょと言って。
 スズメを床に寝かせた。
 そして、私が立ち尽くしているのに気づいた。
「まあ、そういうことっすよ」
「どういう意味?」
 トペニは座り込むと。
 顔をごしごしとこすった。
「他の騎士が、よその騎士団に足を踏み入れるのはタブーなんです」
「…何それ、知らない」
「そりゃ、そうだ。姫君なんだから騎士のルールなんか知るわけないっしょ」
 アハハとトペニの渇いた笑いが響いた。

「タオルをお持ちしました。こちらでお顔を…」
「すいませんねえ」
「スズメ様は大丈夫でしょうか」
「うん。大丈夫っしょ。気絶してるだけ」
 目を覚まさないスズメを見て、
 私はとんでもないことをしてしまったことに気づいた。
 足が、がくがくと震える。
「どうして、タブーだってこと言わなかったの?」
「主君の言うことは絶対ですからね。でしょ、バニラちゃん」
 パチンとわかりやすく、トペニがウインクすると。
 バニラは暗い表情をして頷いた。

 がくがくと震えていた足が限界に達して。
 しゃがみ込んでしまう。
「ごめんなさい。トペニ、スズメ」
 頭を下げるしか出来なかった。

「上に立つっていうのは、そういうこと。何事も経験…いってー。しみるわ、さすがに。いってーわ」
 タオルで拭きながら、トペニは絶叫したのだった。
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