色褪せて、着色して。Ⅵ~黒薔薇編~
 実際は5分も経っていないというのに。
 恐怖からか体感は30分くらいに感じる。

「国王に恨みはありませんし、勿論。貴女に恨みはありません。ですが、このまま年を取って死ぬ前に、私は誠意のこもった謝罪を聴きたい。そして、娘を返してもらいたい」
 娘…と聞いて。
 まさか…という考えがよぎった。
金糸雀(カナリア)の女王は死んでしまいました。ですが、憎しみは浄化することなどないのですよ」
「前王妃がトムじい様のお嬢様に何かしたのですね?」
 バニラの説明に、トムじいは「ええ」と頷いた。
 ローズ様の母上である金糸雀の女王。
 金糸雀(カナリア)というのは、私と同じ金髪だから。
 かつて、王宮で働いていた若い女性を一斉に排除したという前王妃。

「娘は、宮殿で働いていました。そして、二度と戻ってきませんでした。帰ってこない娘を私は今でも待っています」
 トムじいが黙ると。
 一気にその場が静かになった。
 ナオミは戻ってこない。
「長いこと生きていますとね。色んな人とのご縁があるんですよ。王族の情報はちょくちょく耳に入っていましたが。エアー様の存在を私はチャンスだと捕らえた。神の与えてくれた最後のチャンスだと思った」
「神のチャンスだあ? ふざけんなよジジイ!」
 ハガネの言葉に「やめなさい!」と声を荒らげる。
「君は大切なものを失ったことがないから言えるんだろう」
 トムじいが笑う。
 
「屈強な護衛たちがいない。君たちのようなひよっこの騎士しかいない。今日こそが私にとっての…最後の…人生最後のチャンスなんです」
「俺のどこがヒヨコだ!!!」
「怒らないで、ハガネ!!」
 顔を真っ赤にして怒るハガネに。
 トムじいが、「はっははは」と声に出して笑った。

 外から車のエンジン音が聞こえたのは、
 なんというタイミングだろう。
「意外と早く用意できたようですな。行きますぞ」
「ちょっと待って。変な体勢で立ってたから、足が…」
 トムじいは私よりも背が低いので。
 かがんでいた状態だ。
 いきなり歩けと言われても足がしびれて…

「最後にお聞かせくださいませ。トムじい様。国王に会われましたらエアー様は無事に解放してくださいますか」
 このタイミングでよく質問できるな…
 バニラの度胸にあきれ返る。
「どうでしょうな。エアー様の素顔を見たらどうなるんでしょうな」
 トムじいの一言に。
「今ですわ」
 とバニラが言った。
 ガシャーン
 と、ガラスの割れる音。
 目の前が白くなる。
 煙と息苦しさと視界不良で。
 全部が終わったのだ。
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