完璧美人の私が恋したのは、眼鏡オタクのSEでした
 そのとき

 「――少し、よろしいですか」

 静かな声が、割り込んだ。
 白石優希だった。

 全員の視線が、彼に集まる。

 「今回の件を、
  “神崎さん個人の問題”として扱うのは、
  明らかに間違っています」

 役員の一人が、眉をひそめる。

 「だが、きっかけは彼女だろう?」

 優希は、首を横に振った。

 「いいえ
  侵入の手口は、かなり高度です」
 「市販のウイルス対策ソフトでは、
  防げません」
 「ログを解析しましたが、
  通常の操作で感染する類のものではない」

 淡々と、
 しかし迷いなく言葉を重ねる。

 「仮に、
  神崎さんが動画を見ていなかったとしても、
  別の端末が踏み台にされていた
  可能性はあります」

 会議室が、静まり返る。

 「つまり――」

 優希は、はっきりと言った。

 「これは、個人のミスではありません」
 「会社全体のセキュリティ意識と、
  システムの老朽化の問題です」

 里桜は、思わず彼を見る。
 (……庇ってくれてる)

 「さらに言えば」

 優希は続けた。

 「この会社は、
  “外部から狙われている”可能性が高い」
 「今回の件は、その予兆です」

 役員たちの表情が、少しずつ変わる。
 責任の所在が、
 一気に“個人”から“組織”へと戻っていく。
 総務部長が、咳払いをした。

 「……つまり、
  神崎君だけを処分しても、
  根本的な解決にはならない、と?」

 「はい」

 優希は即答した。

 「むしろ、誤った判断です」
 「他の社員も、データの受け渡しに
  USBメモリーを使用している
  実態があります」
 「今回は、
  たまたま彼女がターゲットにされた、
  それだけです」

 沈黙。
 数秒後。

 「……わかった」

 重い声で、結論が下された。

 「神崎君については、
  不注意があった点を踏まえ、
  注意処分に留める」
 「それ以上の処分は行わない」

 里桜の胸から、大きく息が抜けた。
 (……助かった)

 視線を落としたまま、小さく頭を下げる。

 「……ありがとうございます」

 会議が終わり、
 人が一人、また一人と出ていく。
 最後に残ったのは、
 里桜と優希だけだった。

 「……白石さん」

 里桜は、声を絞り出す。

 「ありがとうございます」

 優希は、少しだけ困ったように笑った。

 「事実を言っただけです」
 「あなたが悪者になる話じゃない」

 その言葉に、
 胸の奥が、じんと温かくなった。
 (……この人)
 (見た目は、冴えないのに)

 でも――
 こんなふうに、
 真正面から守ってくれる人だとは、
 思っていなかった。

 神崎里桜の中で、
 白石優希という存在が、
 静かに、しかし確実に大きくなり始めていた。
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