完璧美人の私が恋したのは、眼鏡オタクのSEでした
 初めてのデートから帰って、
 里桜は、部屋のソファに腰を下ろしたまま、
 ぼんやりと自分の手を眺めていた。

 指先が、
 まだ少し熱を持っている気がする。
 (……変なの)

 何も触れていないのに、
 胸の奥が、じんわりと温かい。

 優希と手をつないだ感触。
 歩きながら、
 何気なく重なった指の温度。

 思い出しただけで、
 身体が、ふっと熱くなる。
 (いつぶりだろう……)

 こんなふうに、帰ってきても、
 心が落ち着かない夜なんて。
 長い間、忘れていた感情。

 誰かのことで、
 頭も、胸も、いっぱいになる感じ。
 まるで、
 十代の頃に戻ってしまったみたいで、
 少し可笑しくなる。
 (……私、恋してる)

 そう自覚した瞬間、
 胸が、きゅっと鳴った。

 優希の声。
 優希の横顔。
 優希の、あの少し照れた笑い方。

 考えないようにしても、
 気づけば、
 全部、彼のことばかりだ。

 里桜は、
 そっと手を握りしめる。
 そのぬくもりを、忘れたくなくて。
 静かな部屋の中で、
 ひとり。
 それでも、
 心は、
 確かに、誰かと繋がっていた。

 ——この恋は、
 きっと、
 もう、後戻りできない。
 そんな予感だけが、
 やさしく、胸の奥に残っていた。
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