完璧美人の私が恋したのは、眼鏡オタクのSEでした
“カチ、カチカチ”
キーボードを叩く音だけが、
総務課のフロアに虚しく響いていた。
ここは、三条繊維工業の総務部のオフィス
「……あれ?」
画面を覗き込み、
神崎里桜は眉をひそめる。
「また……?」
小さく呟いて、
隣のデスクを振り向いた。
「先輩。
ワードが立ち上がらないんですけど」
声をかけられた男は、
一瞬だけ天井を仰ぐ。
「……お前、またか」
「え、またって何ですか」
男は椅子を回して近づき、
画面を一瞥した。
「あー……」
「これ、ショートカット消えてるな」
「わかった、ちょっと作り直す」
カタカタ、と迷いのない手つき。
その様子を、
里桜はじっと見つめる。
(……すご)
――神崎さん、美人だけど、
パソコンは絶望的。
背後から、
誰かがそんなことを囁いた気がした。
「……先輩」
里桜が、にこりと笑う。
「今、何か言いました?」
「い、いや!」
男は慌てて首を振る。
「何も言ってない!」
(……おーこわ)
修復が終わり、
画面が正常に戻る。
「はい、動いた」
「ありがとうございます!」
けれど、
里桜は納得がいかない顔をした。
「……なんでパソコンって、
私の言うこと、
全然聞かないんですかね?」
首を傾げて、
少しだけ唇を尖らせる。
「男の子なら
何でも聞いてくれるのに」
ふっ、と小さく笑った。
神崎里桜、二十五歳。
三条繊維工業・総務部総務課。
美人。
華やか。
社内では、
いつも視線を集める存在。
けれど、どこか気高くて、
自然と一歩、距離を取られてしまう。
(……あーあ)
デスクに肘をつき、
ぼんやりと天井を見上げる。
そのとき――
「神崎さん、またPCと格闘ですか?」
そこに立っていたのは、
同じ総務部の同僚、遥斗だった。
社内では“まあまあイケメン”と評され、
女子社員の間でも、密かに人気がある。
気遣いもできて、空気も読めて、
誰にでも感じがいい。
……たぶん、
私のことも、少しは気にしている?
「大丈夫です」
作り笑いで、軽く返す。
遥斗は、いつもこうして声をかけてくれる。
優しいし、悪い人じゃない。
むしろ、条件だけ見れば“十分いい人”。
(……でも)
なんだろう。
決定的に、何かが違う。
安心はするけど、
心は、動かない。
遥斗が自分の席へ戻っていく
背中を見送りながら、
私は、もう一度思ってしまう。
(いい男、いないかな)
その瞬間、
まだ知らない運命が、
静かに――けれど確実に、動き出していた。
キーボードを叩く音だけが、
総務課のフロアに虚しく響いていた。
ここは、三条繊維工業の総務部のオフィス
「……あれ?」
画面を覗き込み、
神崎里桜は眉をひそめる。
「また……?」
小さく呟いて、
隣のデスクを振り向いた。
「先輩。
ワードが立ち上がらないんですけど」
声をかけられた男は、
一瞬だけ天井を仰ぐ。
「……お前、またか」
「え、またって何ですか」
男は椅子を回して近づき、
画面を一瞥した。
「あー……」
「これ、ショートカット消えてるな」
「わかった、ちょっと作り直す」
カタカタ、と迷いのない手つき。
その様子を、
里桜はじっと見つめる。
(……すご)
――神崎さん、美人だけど、
パソコンは絶望的。
背後から、
誰かがそんなことを囁いた気がした。
「……先輩」
里桜が、にこりと笑う。
「今、何か言いました?」
「い、いや!」
男は慌てて首を振る。
「何も言ってない!」
(……おーこわ)
修復が終わり、
画面が正常に戻る。
「はい、動いた」
「ありがとうございます!」
けれど、
里桜は納得がいかない顔をした。
「……なんでパソコンって、
私の言うこと、
全然聞かないんですかね?」
首を傾げて、
少しだけ唇を尖らせる。
「男の子なら
何でも聞いてくれるのに」
ふっ、と小さく笑った。
神崎里桜、二十五歳。
三条繊維工業・総務部総務課。
美人。
華やか。
社内では、
いつも視線を集める存在。
けれど、どこか気高くて、
自然と一歩、距離を取られてしまう。
(……あーあ)
デスクに肘をつき、
ぼんやりと天井を見上げる。
そのとき――
「神崎さん、またPCと格闘ですか?」
そこに立っていたのは、
同じ総務部の同僚、遥斗だった。
社内では“まあまあイケメン”と評され、
女子社員の間でも、密かに人気がある。
気遣いもできて、空気も読めて、
誰にでも感じがいい。
……たぶん、
私のことも、少しは気にしている?
「大丈夫です」
作り笑いで、軽く返す。
遥斗は、いつもこうして声をかけてくれる。
優しいし、悪い人じゃない。
むしろ、条件だけ見れば“十分いい人”。
(……でも)
なんだろう。
決定的に、何かが違う。
安心はするけど、
心は、動かない。
遥斗が自分の席へ戻っていく
背中を見送りながら、
私は、もう一度思ってしまう。
(いい男、いないかな)
その瞬間、
まだ知らない運命が、
静かに――けれど確実に、動き出していた。