完璧美人の私が恋したのは、眼鏡オタクのSEでした
 今日も
 総務部のフロアは、
 どこか落ち着かなかった。

 原因は、分かっている。
 白石優希。

 ——正確には、

 “変身してしまった”白石優希、だ。

 「ねえ、見た?」

 「今日も来てるよ」

 「ほんと別人、イケメンだよね……」

 小声のはずなのに、なぜか耳に入ってくる。

 里桜は、
 書類に視線を落としたまま、
 知らないふりをした。
 (……また始まった)

 コピー機の前で、若い女子社員が、
 必要以上に優希のそばに立っている。

 「白石さん、その資料……」
 「僕がやりますよ」
 「えー、でも重いですし」

 距離が、近い。
 胸の奥が、小さくざわついた。

 さらに——。
 今度は、別のデスク。

 後輩の女子社員が、
 自分のパソコンの前で、
 優希を呼び止めている。

 「白石さん、
 この画面なんですけど……」

 画面を覗き込む優希。
 その瞬間。
 マウスの上に置かれた手に、
 絵里の手が、そっと伸び
 わざとらしく、重なった。

 ——ほんのすこしの間。
 でも、確実に手を重ねている。

 里桜の指が、
 無意識に、ペンを強く握る。
 (ちょっと若くて可愛いからって)
 (……それ、分かってるでしょ)

 画面の内容は、
 総務なら誰でも知っている
 簡単な操作。
 質問するほどのことじゃない。
 なのに。

 「白石さん、ここ、どうすれば」

 「……あ、はい」

 その女子社員は、そっと体を近づけて、
 説明を聞いている。

 優希は、気づかないのか、
 気づいていて無視しているのか。
 ただ、淡々と説明している。

 他の女子社員と、その“距離の近さ”が、
 どうしようもなく、気に障った。
 (……嫌!)

 はっきり、そう思ってしまった。
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