完璧美人の私が恋したのは、眼鏡オタクのSEでした

11. 初めてのキスは神宮外苑で

 それからは、
 自分でも驚くぐらい、迷いがなかった。

 気づけば、
 こちらから優希に連絡していた。

 「今週、少し時間ありますか?」
 「この前のお店、また行きたいなって」

 優希は、
 少し驚いたようにしながらも、
 毎回、丁寧に応じてくれた。

 食事をして。
 他愛のない話をして。
 帰りに、少しだけ歩く。

 そんな時間を、何度か重ねた。
 特別なことは、何もしていないのに。

 会うたびに、距離が、
 少しずつ縮まっていくのが、
 はっきり分かった。
 
 そして、また神宮外苑を歩いた夜。
 並木道は、相変わらず静かで、
 街灯の光が、
 やわらかく足元を照らしていた。

 「……この道、
  やっぱり落ち着きますね」

 私がそう言うと、優希は小さく頷いた。

 「そうですね」

 しばらく、並んで歩く。

 会話が途切れても、
 気まずくならない。
 そんな沈黙が、心地よかった。

 立ち止まったのは、私だったと思う。

 優希が、
 不思議そうにこちらを見る。

 「……白石さん」

 呼ぶと、
 優希は、少し身を屈めるように
 視線を合わせてくれた。

 その距離が、近すぎて。
 胸が、きゅっと鳴った。

 次の瞬間、
 私は、
 ほとんど反射みたいに、
 彼のシャツを掴んでいた。

 唇が、そっと触れる。

 ——キス。

 たったそれだけなのに。
 胸の奥が、じん、と熱くなって。
 身体の芯まで、じわじわ広がる。
 (……なに、これ)

 キスだけで、こんなふうになるなんて。

 元カレのときは、こんなふうに、
 心まで温かくならなかった。

 優希のキスは、
 急がなくて、優しくて、
 確かめるみたいで。

 触れられているのに、
 抱きしめられているみたいだった。
 (……私)
 (この人を、好きになったんだ)

 そう思っただけで、身体の奥が、
 ふわっと緩む。

 キスなのに、頭がぼうっとして、
 足の力が抜けそうになる。
 心が先に溶けて、
 そのあと、身体が追いついてくる。

 ——好きな人とのキスって、
 こんなにも、あたたかくて、
 苦しいほど気持ちいいんだ。

 離れたくなくて、
 里桜は、
 そっと自分から、
 もう一度、唇を重ねた。

 優希のぬくもりが、
 そのまま、
 胸の中に染み込んでいく。
 (……もう、戻れない)

 そう思っても、不安はなかった。
 ただ、
 この人が好きだという気持ちが、
 静かに、
 確かに、
 広がっていくだけだった。
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