完璧美人の私が恋したのは、眼鏡オタクのSEでした
 翌朝
 白石優希は、出社しなかった。

 始業時刻を過ぎても姿を見せず、
 スマートフォンに連絡を入れても、
 呼び出し音が虚しく続くだけ。

 「……無断欠勤、みたいです。」

 上司に報告に来た
 社員の声は、どこか硬い。

 「はい。
  今朝から、連絡が取れません」

 その報告を聞いた瞬間、
 一ノ瀬の表情が、はっきりと変わった。
 (やはり、来たか)

 嫌な予感は、外れていなかった。

 「……マサト」

 一ノ瀬は、低い声で呼ぶ。

 「昨夜の件だ
  やはり、ただのトラブルじゃない」

 マサトは、すでに状況を理解していた。

 「はい、
  白石が関係している案件の
  可能性が高いですね」

 一ノ瀬は、
 机の上に置かれた資料を押さえながら言う。

 「白石は、
  今回の三条繊維工業の対策チームの要だ」
 「彼が抜ければ、
  こちらの防御は一気に薄くなる」

 それは、
 会社にとっても、致命的だった。

 「……急げ」

 一ノ瀬の声に、迷いはなかった。

 「マサト。
  最優先で、白石を探せ」

 「承知しました」

 「昨日の車だ
  ナンバー、レンタル元、
  出入りした場所、すべて洗い出せ」

 一ノ瀬は、続ける。

 「それと——、警察にも、通報しろ」

 マサトは、わずかに眉を動かす。

 「誘拐として、
  扱ってもらえるでしょうか」

 「構わない」

 「“行方不明”でもいい
  今は、動かすことが重要だ」

 マサトは、短く頷いた。

 「すぐに動きます」

 部屋を出ていく背中を見送りながら、
 一ノ瀬は、静かに息を吐いた。
 (……最悪のタイミングだ)

 外では、
 何も知らない社員たちが、
 いつも通りの朝を迎えている。
 だが、水面下では、
 確実に歯車が狂い始めていた。
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