完璧美人の私が恋したのは、眼鏡オタクのSEでした

15. 逆探知――罠はこっちだった


 その頃
 一ノ瀬は、
 弁護士を通じて正式に警察へ通報していた。

 内容は二つ
 ひとつは、
 三条繊維工業がサーバ攻撃を受け、
 情報漏洩を盾に脅迫されていること。

 もうひとつは、
 その対応責任者である白石優希が
 行方不明になっているという事実だった。

 単なる失踪ではない。
 サイバー犯罪と
 人身被害が絡む、悪質な案件。
 警察も、さすがに動かざるを得なかった。

 同じ頃
 優希は、
 都内某所の、薄暗い倉庫にいた。
 手首は縛られ、口元にはガムテープ。
 目の前に立つ男が、低い声で言う。

 「三条繊維工業のサーバー、
  アクセスキーを教えろ」

 優希は、首を振った。
 次の瞬間、ニヤッとしながら
 男は、スマートフォンを差し出した。

 画面に映っていたのは――
 里桜。

 気づかない角度から撮られた写真。
 会社の前。
 自宅近く。
 隠し撮りとしか思えないものばかり。

 「……っ」

 息が詰まる。

 「言わないなら、
  次は、どうなるかわかるよな?」

 「美人の彼女、どうなるか楽しみだなぁ」

 「俺達も、ここで彼女と、
  いろいろ楽しむことになるぞ!」

 単なる脅しではない。
 淡々とした声が、逆に恐ろしかった。
 (……俺のせいだ)

 優希は、歯を食いしばる。
 (彼女を、巻き込めない)

 震える声で、
 三条繊維工業のサーバーの
 アクセスキーを告げた。

 数分後。
 三条繊維工業のSEから、グローバルHDへ
 緊急連絡が入った。

 一ノ瀬のもとへ、
 セキュリティ責任者から緊急報告が入った。

 「社長!
  三条繊維工業のサーバーに、
  不審なアクセスがあります!」

 「すぐに対応に入れ」

 一ノ瀬は即答した。
 そして、一瞬、眉をひそめる。
 (……白石が?)

 だが、どこか引っかかる。

 「ログを解析しろ」

 「アクセス経路を洗え」

 セキュリティチームが、
 高速で作業を進める。

 数分後。

 「……おかしいです」

 担当者が言った。

 「このアクセスキーでは、
  旧サーバーにしか入れません」

 「しかも――、重要なデータは、
  すでに、全て移行済みです」

 「残っているのは、ダミーデータのみです」

 対応を見守っていた一ノ瀬は、
 小さく息を吐いた。

 「……白石」
 (あいつ、わざと“餌”を渡したな)

 さらに続く報告。

 「このアクセスキー」
 「解析したところ、侵入時に、
  相手側のIPが、このサーバーで取得できる
  仕組みになっています」

 「相手の位置が、特定できます」

 「すぐに、やれ」

 数秒後。

 「……出ました」
 「都内です、江東区」
 「会社名義の、小さな倉庫です」

 一ノ瀬は、迷わなかった。

 「マサト、迎えに行け」
 「警察にも連絡しろ、場所を共有する」

 マサトは、静かに頷いた。

 「了解しました」

 その目に、迷いは一切なかった。
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