完璧美人の私が恋したのは、眼鏡オタクのSEでした
その日の夕方。
スマートフォンが震えたのは、
里桜が自席で、何度目かの
着信履歴を確認していたときだった。
画面に表示されたのは、
知らない番号だった。
一瞬、ためらってから、
通話ボタンを押す。
「……はい、神崎です」
『突然すみません』
落ち着いた、低い男性の声。
『白石の上司です』
『先日、三条繊維工業の
システム視察に同行した者です』
里桜の胸が、小さくざわつく。
「……白石さんに、何か?」
一ノ瀬は、
静かに切り出した。
『実は』
『白石が、今日、無断欠勤しています』
「……え?」
思わず、声が漏れる。
『電話も、
メッセージも繋がりません』
『こちらとしても、
少し心配していまして』
胸の奥が、すっと冷える。
「……私は」
「何も聞いていません」
「昨日も、
特に変わった様子はなくて……」
『そうですか』
短く、落ち着いた返事。
『念のため、お聞きします』
『最近、白石から
何か話を聞いていませんか』
『些細なことでも構いません』
里桜は、
少し考えてから答えた。
「……特には」
「仕事の話は、
いつも通りでした」
それから、一ノ瀬は
別の話題に触れた。
『神崎さん』
『“智也”という人物に、
心当たりはありますか』
心臓が、強く跳ねた。
「……あります」
『どういう方ですか』
里桜は、迷いながらも、
正直に口を開いた。
「……元彼です」
『最近、なにか連絡とかありましたか』
「はい……」
声が、わずかに震える。
「USBメモリーを
送ってきたことがあって」
「動画が入っているって……」
「それから、
たまに電話が来るようになりました」
『会社の話は?』
「……はい」
「ハッカーにやられたんだろ、
みたいなことを……」
電話口が、少し静かになる。
『分かりました』
深追いはしない。
ただ、事実だけを受け取る声。
『話してくれて、
ありがとうございます』
里桜は、
不安を抑えきれずに聞いた。
「……白石さん」
「大丈夫、なんでしょうか」
一ノ瀬は、即答しなかった。
『こちらも、心配しています』
『今は、
連絡を取ろうとしているところです』
それだけを、静かに伝える。
『もし、
白石から何か連絡があったら』
『この番号に、
すぐ知らせてください』
「……はい」
通話が切れたあと、
里桜は、
しばらくスマートフォンを
握りしめたままだった。
(無断欠勤……)
(連絡が、取れない……)
胸の奥に、
はっきりしない不安が、
じわじわと広がっていく。
それでも——
あの落ち着いた声が、
どこか事態を
掌握しているように思えた。
胸の奥が、じわじわと冷えていく。
優希は、几帳面で、
どんなに忙しくても、
一言くらいは必ず返してくれる人だった。
(おかしい……)
画面を、もう一度見る。
優希の名前。
未読のままのメッセージ。
「……優希さん」
小さく呼んだ声は、誰にも届かない。
理由はわからない。
でも。
——嫌な予感だけが、
はっきりと、胸の中にあった。
里桜は、
ぎゅっと唇を噛みしめる。
(大丈夫)
そう言い聞かせようとしても、
目の奥が、じんと熱くなる。
「……やだ」
気づいたときには、
一粒、
涙がこぼれていた。
理由もわからない不安が、
静かに、
でも確実に、
里桜を追い詰め始めていた。
スマートフォンが震えたのは、
里桜が自席で、何度目かの
着信履歴を確認していたときだった。
画面に表示されたのは、
知らない番号だった。
一瞬、ためらってから、
通話ボタンを押す。
「……はい、神崎です」
『突然すみません』
落ち着いた、低い男性の声。
『白石の上司です』
『先日、三条繊維工業の
システム視察に同行した者です』
里桜の胸が、小さくざわつく。
「……白石さんに、何か?」
一ノ瀬は、
静かに切り出した。
『実は』
『白石が、今日、無断欠勤しています』
「……え?」
思わず、声が漏れる。
『電話も、
メッセージも繋がりません』
『こちらとしても、
少し心配していまして』
胸の奥が、すっと冷える。
「……私は」
「何も聞いていません」
「昨日も、
特に変わった様子はなくて……」
『そうですか』
短く、落ち着いた返事。
『念のため、お聞きします』
『最近、白石から
何か話を聞いていませんか』
『些細なことでも構いません』
里桜は、
少し考えてから答えた。
「……特には」
「仕事の話は、
いつも通りでした」
それから、一ノ瀬は
別の話題に触れた。
『神崎さん』
『“智也”という人物に、
心当たりはありますか』
心臓が、強く跳ねた。
「……あります」
『どういう方ですか』
里桜は、迷いながらも、
正直に口を開いた。
「……元彼です」
『最近、なにか連絡とかありましたか』
「はい……」
声が、わずかに震える。
「USBメモリーを
送ってきたことがあって」
「動画が入っているって……」
「それから、
たまに電話が来るようになりました」
『会社の話は?』
「……はい」
「ハッカーにやられたんだろ、
みたいなことを……」
電話口が、少し静かになる。
『分かりました』
深追いはしない。
ただ、事実だけを受け取る声。
『話してくれて、
ありがとうございます』
里桜は、
不安を抑えきれずに聞いた。
「……白石さん」
「大丈夫、なんでしょうか」
一ノ瀬は、即答しなかった。
『こちらも、心配しています』
『今は、
連絡を取ろうとしているところです』
それだけを、静かに伝える。
『もし、
白石から何か連絡があったら』
『この番号に、
すぐ知らせてください』
「……はい」
通話が切れたあと、
里桜は、
しばらくスマートフォンを
握りしめたままだった。
(無断欠勤……)
(連絡が、取れない……)
胸の奥に、
はっきりしない不安が、
じわじわと広がっていく。
それでも——
あの落ち着いた声が、
どこか事態を
掌握しているように思えた。
胸の奥が、じわじわと冷えていく。
優希は、几帳面で、
どんなに忙しくても、
一言くらいは必ず返してくれる人だった。
(おかしい……)
画面を、もう一度見る。
優希の名前。
未読のままのメッセージ。
「……優希さん」
小さく呼んだ声は、誰にも届かない。
理由はわからない。
でも。
——嫌な予感だけが、
はっきりと、胸の中にあった。
里桜は、
ぎゅっと唇を噛みしめる。
(大丈夫)
そう言い聞かせようとしても、
目の奥が、じんと熱くなる。
「……やだ」
気づいたときには、
一粒、
涙がこぼれていた。
理由もわからない不安が、
静かに、
でも確実に、
里桜を追い詰め始めていた。