完璧美人の私が恋したのは、眼鏡オタクのSEでした

3. 担当は白石優希――最悪の再会

 数日後。
 総務フロアに、珍しく全員が集められた。

 「えー、業務連絡だ」

 総務部長が、少し改まった声で言う。

 「今月から、外部の会社に
  社内システムとセキュリティの
  検査をお願いすることになった」

 ざわ、と小さく空気が動く。

 「先日、社内を見て回っていたので、
  覚えている人もいると思うが」
 「業務の一環だ。
  各自、協力してほしい」

 その言葉を聞いた瞬間。
 里桜の胸が、きゅっと高鳴った。
 (……外部の会社……)
 
 数日前、
 フロアを歩いていた、あの人。
 すっと背筋が伸びていて、
 近づくだけで空気が変わるような、
 あの圧倒的に“いい男”。
 (また、会えるかもしれない)

 里桜は、思わず背筋を伸ばした。
 (よし……)
 (ここが、女としての勝負どころよね)

 髪を軽く整え、
 無意識に姿勢を正す。
 (社内の女たちには、
  絶対負けないんだから)

 そのとき。
 フロアの入り口が開いた。
 里桜の視線が、ぱっとそちらに向く。
 (来た……?)

 期待が、胸の奥で跳ねた。
 だが。
 入ってきたのは、
 見覚えのある男だった。

 乱れ気味の髪。
 眼鏡。
 少し地味なスーツ。
 ——あのとき、
 隣を歩いていた、さえないほう。

 「……あぁ」

 小さく、声が漏れる。
 総務部長が言った。

 「紹介します」
 「今回、システムとセキュリティの
  検査を担当する」
 「グローバル・ホールディングスの
  エンジニア、白石優希さんです」

 白石は一歩前に出て、
 丁寧に頭を下げた。

 「白石優希です」
 「これから、皆さんのPCや
  システム周りを確認させていただきます」
 「ご不便をおかけしますが、
  ご協力、よろしくお願いします」

 落ち着いた声。
 無駄のない挨拶。
 けれど。
 (……なんだ、あいつか)

 里桜の肩から、
 すっと力が抜けた。
 (期待して、損した)

 視線を逸らしながら、
 小さくため息。
 (こないだの人だったら、
  よかったのに)

 胸の奥に、
 ほんのりとした落胆が残る。

 ——このときの里桜は、
 まだ知らなかった。
 目の前の“さえない眼鏡の男”が、
 この先、自分の世界を
 大きく揺さぶる存在になることを。
< 5 / 55 >

この作品をシェア

pagetop