『爆走!メカニカル・シンデレラ 〜恋のバグは、無敵のガジェットでも直せません!〜』

第4話:起動、メカニカル・ドレス! 〜制御不能な恋とシステム〜

1. 最高の学園祭と、忍び寄るバグ
「……完璧。どこからどう見ても、今の学園で一番熱い場所はここね!」
学園祭当日。私、如月カンナは、カスタム部が作り上げた『ハイパーARお化け屋敷』の入り口で、満足げに工具バッグを抱え直した。
目の前では、最新のホログラム技術と私の自作ギミックが融合した「飛び出す幽霊」に、生徒たちが悲鳴を上げながらも笑顔で楽しんでいる。
「カンナっち、お疲れ様! ほら、水分補給。顔、油でテカってるわよ?」
「あ、七海……ありがとう。それより、そっちの『着せ替えAR』の方は?」
「絶好調! 私のプロデュースしたメイクと、カンナっちの投影技術のコラボだもん。女子たちがみんなお姫様気分で大行列よ」
七海が差し出したスポーツドリンクを飲み干すと、私の心臓が「キュン」と、昨日までの『バグ』とは違うリズムで鳴った。
人波を割って、こちらに歩いてくるキラキラしたオーラ。……一ノ瀬湊くんだ。
「カンナさん、すごいよ。どの出し物も、君の技術のおかげで最高に盛り上がってる」
「湊くん……。そ、そんなことないわ。私はただ、みんなが安全に、効率よく遊べるようにメンテナンスしてるだけで……」
「はは、照れなくてもいいのに。……あ、そうだ。後で行われる『ミス・ミスターコンテスト』のフィナーレ、楽しみにしてるから。君に『特別な衣装』を用意したって、七海から聞いてるよ」
「……えっ!? 衣装!?」
初耳だ。七海を振り返ると、彼女はペロッと舌を出してウィンクした。
(ヤバい、嫌な予感がする。……というか、七海が用意する衣装って、絶対まともじゃないわ!)
その時だった。
私の腰のベルトに装着していた『広域エリア・モニター』が、真っ赤なアラートを吐き出した。
【警告:メインサーバーの負荷が限界値を超過。防犯システム、異常作動を開始します】
「……嘘。シオン、聞こえる!? サーバーが暴走してるわ!」
インカムに叫ぶが、返ってくるのは激しいノイズだけ。
突如、校内放送のスピーカーがキィィィィン! と耳をつんざく悲鳴を上げ、ガシャン! と大きな音が響き渡った。
「――っ! 防犯ゲートが閉まった!?」
見ると、私が第2話で「良かれと思って反応速度を1.5倍に上げた」防犯シャッターが、全館一斉に降りていくのが見えた。
「閉じ込められた……!?」
楽しかった学園祭は、一瞬にしてパニックの渦に飲み込まれた。
2. 絶体絶命のシンデレラ
「湊くん、離れないで!」
私は反射的に、湊くんの手を強く握りしめた。
「誰かがシステムを書き換えてる。……九条くん? いえ、彼じゃないわ。このコード、もっと攻撃的で……あ!」
モニターに映し出されたのは、中枢システムがオーバーヒートし、校舎の屋上にある『電波制御タワー』から火花が散っている映像だった。
このままでは、あと十分でシステムが完全崩壊し、電子ロックがかかった教室に生徒たちが閉じ込められたまま、非常用スプリンクラーが誤作動して水浸しになってしまう。
「カンナっち、これを使って!」
七海が、大きな衣装ケースを抱えて走ってきた。
「フィナーレで着るはずだったドレスよ! でも、ただのドレスじゃないわ。カンナっちが夜中に『ついでに改造しちゃえ』って弄りまくってた、あの試作品を組み込んだの!」
「……あ! まさか、あの『高出力・姿勢制御ユニット』付きのドレス!?」
「そう! 制御タワーまで外壁を駆け上がるには、それしかないわ!」
私は迷っている暇はなかった。
湊くんが、力強い瞳で私を見つめる。
「行って、カンナさん。……君なら、この学園を救える。僕はここで、みんなの避難を誘導する。君を信じてるから」
「……了解(アクセプト)! 三分で着替えてくるわ!」
3. 起動、パワード・ドレス!
三分後。
そこには、純白のフリルと、鈍く光るカーボン製のフレームが融合した、まさに『新時代の戦闘服(シンデレラ・ドレス)』を纏った私の姿があった。
背中のリボンには、私が伏線として第1話で作っていた「小型ドローンのプロペラユニット」を四基内蔵。
足元には、壁面走行を可能にする吸着磁気ソール。
「いくわよ……。システム・オーバーライド! カンナ・カスタム、起動!」
私は窓から外壁へと飛び出した。
「きゃああああ!」と下で見守る生徒たちの悲鳴が上がるが、私は落ちない。
背中のプロペラが猛烈に回転し、重力という名のバグを書き換えていく。
「雷太、聞こえる!? 屋上のハッチ、爆破して!」
『おうよ! カンナっち、派手に行くぜ!』
ドォォォォン!
雷太が仕掛けていた「演出用の煙火」が、計算通り屋上の鍵を焼き切る。
「シオン、ハッキングの経路(パス)は!?」
『……見つけた。九条の残したバックドアを突いている外部ウイルスだ。今のドレスの通信機能なら、強制終了(キルスイッチ)を押せる!』
私は外壁を駆け上がり、ついに制御タワーの頂上へ辿り着いた。
眼下には、夕陽に染まる学園。
そして、校庭の真ん中で、ただ一人こちらを見上げて、空飛ぶスマホを掲げている湊くんが見えた。
「カンナさーん! そのスマホに、僕の『認証パスワード』を送った! それでシステムを上書きして!」
空飛ぶスマホが、強風に煽られながら私の元へ飛んでくる。
これは第1話で私が「勝手にプロペラをつけた」あのスマホだ。
湊くんは、あの日からずっと、私の改造を「宝物」として持ち続けてくれていた。
「湊くん……大好き!!」
私は思わず、全校生徒に聞こえるほどの声で叫んでいた。
スマホをキャッチし、ドレスの腕に内蔵されたコネクタに直結する。
「エラーコード、全消去(デリート)! 私の恋を、邪魔しないで――!!」
指先がキーボードを叩く。
0と1の世界が、私の情熱で塗り替えられていく。
……そして。
ピコーン! と、学園中の電子音が、心地よい和音を奏でた。
閉じていたシャッターがゆっくりと開き、夕陽が校舎の中に差し込む。
4. 伏線回収:魔法が解けたあとの、本当の姿
システムは復旧した。
パワード・ドレスの燃料(バッテリー)が切れ、私はゆっくりと、パラシュート代わりのフリルを広げて校庭へと降り立った。
着地した瞬間、膝の力が抜けて倒れそうになる私の体を、温かい腕が支えてくれた。
「……ナイス・ランディング。最高のヒロインだったよ、カンナさん」
湊くんだ。
私のドレスは、壁を登った時の摩擦や火花でボロボロ。顔もすすけて、お世辞にも「シンデレラ」とは言えない姿。
でも、湊くんは私の汚れた頬を、愛おしそうに指で拭った。
「見て、みんな」
湊くんの声が響く。
「僕たちの学園を救ったのは、この最高のエンジニア……如月カンナだ!」
わぁぁぁぁ! と、地鳴りのような大歓声が上がる。
七海が泣きながら抱きついてきて、雷太がハイタッチを求め、シオンが「……フン、計算通りだ」と照れくさそうに笑う。
「……ねえ、湊くん」
私は、彼のシャツの裾をギュッと掴んだ。
「ドレス、壊れちゃった。……魔法、解けちゃったみたい」
すると、湊くんは私の耳元で、甘く、でも確かな声で囁いた。
「いいんだよ。僕は、ドレスを着たお姫様じゃなくて……油まみれでレンチを握ってる、君自身に恋をしたんだから」
【緊急通知:如月カンナの心拍数、計測不能なオーバーフローを記録】
私の腕時計型ガジェットが、今までで一番鮮やかな、七色の虹色に輝き出した。
これはバグじゃない。
不完全で、型破りで、でも世界にたった一つの。
私と、湊くんの――『恋のインストール完了』の合図だった。
「……もう。修理代、高くつくんだから。……覚悟してよね、王子様!」
夕陽が二人を包み込み、学園祭のグランドフィナーレを告げる花火が、夜空に大きな歯車(ギア)の形を描いて打ち上がった。

つづく
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