『爆走!メカニカル・シンデレラ 〜恋のバグは、無敵のガジェットでも直せません!〜』

第5話:放課後デートは、スクラップ・アンド・ビルド!?

1. 「デート」という名のシステムエラー
「……デ、デデデ、デートォォォ!?」
放課後の旧校舎地下、カスタム部の部室。私の絶叫が、並んだモニターや工具棚を震わせた。
目の前では、学園の王子様こと一ノ瀬湊くんが、相変わらずのキラキラ笑顔で立っている。
「そうだよ。学園祭の時、カンナさんは体を張って僕たちを……学園を救ってくれただろう? そのお礼をしたいんだ。日曜日の午前十時、駅前の大型ショッピングモール。空けておいてくれるかな?」
「お、お礼……。いや、あれはエンジニアとしての義務というか、ただの趣味の延長であって、別にそんな接待を要求するような回路は私には組み込まれてなくて――」
パニックになった私の口から、意味不明な理屈が高速で溢れ出す。
湊くんはくすくすと笑い、私の手に小さなメモを握らせた。
「楽しみにしてるよ、カンナさん。……あ、ツナギじゃなくて『可愛い服』で来てくれると嬉しいな」
王子が去った後、私はその場にガシャコン! と崩れ落ちた。
「……無理。詰んだ。私の人生、ここで強制終了(強制シャットダウン)だわ……」
「何言ってんのよ、カンナっち! 絶好のチャンスじゃない!」
背後から現れたのは、メイクの天才・七海だ。その後ろには、爆破担当の雷太と、キーボードを叩くシオンもいる。
「いい、カンナっち。これはただのデートじゃない。『一ノ瀬湊攻略ミッション』よ! 私が全力で、あんたを世界一可愛いメカニックに改造してあげるわ!」
「……七海、私を機械みたいに言わないで。でも……可愛い服って何? ギアもレンチも入らないような服を着て、私はどうやって自分を保てばいいの……?」
「そんなもん、気合っすよ! カンナっち!」
雷太が景気よく肩を叩く。
「……カンナ」
シオンが眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせて、タブレットを見せてきた。
「デートのついでに、一つ調べてほしいことがある。学園祭のシステム暴走……あれ、九条のウイルスを解析したが、一部に『僕たちの知らないコード』が混ざっていた。発信源は、そのショッピングモールの近くにある旧電波塔だ」
「……旧電波塔? 伏線っぽい響きね」
「ああ。何かが動いている。……デートを楽しめとは言わないが、一応警戒はしておけ」
こうして、私の「初デート」という名の最高難易度ミッションが、カウントダウンを始めた。
2. 非効率的な「可愛さ」の追求
日曜日。午前九時。
鏡の前に立つ私は、自分自身の姿を見て、激しい違和感に襲われていた。
七海によって「魔改造」された私の姿は、淡いパステルピンクのワンピースに、小さなリボンのカチューシャ。
「……な、七海。この服、ポケットが一つもないわ。予備のベアリングも、マルチテスターも入らない。なんて非効率的な構造なの……!」
「いいのよ! 今日は『シンデレラ』なんだから! ほら、この小さなポシェットにはリップとハンカチだけ。余計な工具は全部置いていきなさい!」
私は泣く泣く、愛用のドライバーセットを机に置いた。
でも、エンジニアとしての本能が、こっそりと「超小型・高感度センサー」をリボンの裏に仕込ませた。これだけは譲れない。
駅前に着くと、湊くんは既に待っていた。
今日の彼は、ネイビーのジャケットに白いシャツ。モデル顔負けの着こなしに、道ゆく女の子たちがみんな振り返っている。
「……あ、カンナさん。……すごく、可愛いね」
湊くんが私の目を見て、少しだけ頬を赤くして言った。
その瞬間、私のリボンの裏のセンサーが「ピピピピピ!」と異常な心拍数を検知して鳴りそうになった。危ない。
「あ、ありがとう……。湊くんも、その……出力が高すぎて眩しいわ」
「ふふ、それ褒め言葉として受け取っておくよ。さあ、行こうか」
私たちはショッピングモールへと歩き出した。
映画を見て、パンケーキを食べて、可愛い雑貨屋を回る。
……はずだった。
3. デートのバグと、謎のノイズ
「……カンナさん、映画、面白かったね」
「そうね。でも、あの劇中のロボットの関節可動域、ちょっと物理法則を無視してた気がするわ。あとで計算し直さないと……」
「あはは、カンナさんは本当に機械が好きなんだね。……でも、そんな風に自分の好きなことを真っ直ぐに語る君を見てると、僕も不思議と勇気が湧いてくるんだ」
湊くんが、ふとした瞬間に寂しそうな目をする。
(……伏線。一ノ瀬湊。学園の王子様。でも、彼は自分の本当の望みを隠している?)
私がそう問いかけようとした時、リボンのセンサーが激しい警告音を脳内に響かせた。
【警告:高出力の妨害電波(ジャミング)を感知。周辺の電子機器が暴走する恐れがあります】
「……湊くん、止まって!」
私が彼の腕を掴んだのと同時だった。
モールのエスカレーターが、急激にスピードを上げた。
「きゃああああ!」
悲鳴が上がる。
「……やっぱり! 誰かがモールの制御システムに侵入してる!」
私はポシェットから、七海に内緒で忍ばせていた「小型ハッキング・デバイス(見た目は可愛いコンパクト型)」を取り出した。
「カンナさん!? 道具は持ってきてないんじゃ……」
「これくらい、エンジニアの嗜みよ! 湊くん、みんなをエスカレーターから離して! 私は制御盤を叩くわ!」
私はワンピースの裾を翻し、エスカレーターの付け根にある隠しパネルへと飛び込んだ。
「……このコード、シオンが言ってたやつだわ。九条のウイルスに似てるけど、もっと緻密で……冷酷な、機械の意志を感じる」
私は指先を動かし、コードを書き換えていく。
だが、相手の防御(ウォール)が厚い。
(……くっ、マルチドライバーさえあれば、物理的に配線をカットできるのに!)
「――これを使って!」
湊くんが、自分のネクタイピンを私に差し出した。
見ると、それは細いピン状の金属でできている。
「これなら、リセットボタンを押し込めるんじゃないかな?」
「湊くん……ナイス・アシスト!」
私は彼のネクタイピンを手に取り、制御盤の奥にある極小のリセットスイッチを突いた。
カチッ。
……エスカレーターがゆっくりと停止し、周囲に静寂が戻る。
「……ふぅ。ミッション完了」
私は額の汗を拭った。
見上げると、湊くんが私の顔をじっと見つめている。
「……やっぱり、君は僕のシンデレラだ。ドレスを着てなくても、レンチを持ってなくても……誰かを助けようとするその姿が、一番かっこいい」
「……湊、くん……」
夕暮れ時のモール。
私たちは、壊れたエスカレーターのそばで、見つめ合った。
彼の顔が、ゆっくりと近づいてくる。
(……え? これって、もしかして、伝説の『第5話のキスシーン』!? いや、まだ全12話の中盤よ!? 早すぎるわ、構成上のバグよ!!)
私の心臓が、オーバーフロー寸前の熱を帯びた、その時。
『……ハロー、一ノ瀬湊。そして、爆走メカニック、如月カンナ』
モールの巨大ビジョンに、ノイズ混じりの映像が映し出された。
そこにいたのは、仮面をつけた謎の人物。
『学園祭の遊びは終わりだ。これから本当の「再起動(リブート)」を始める。……楽しみにしているよ、カスタム部の諸君』
映像はすぐに消え、モールには不気味な静寂が残された。
4. 結び:深まる謎と、解けない魔法
デートの帰り道。
私たちは駅のホームで、沈黙を守っていた。
「……湊くん。あの仮面の人物、心当たりは?」
「……いや。でも、あの声、どこかで聞いたことがある気がするんだ。……ごめん、カンナさん。せっかくのデートを台無しにして」
湊くんは、私のワンピースの肩についていた小さな油汚れ(作業中にいつの間にかついていたらしい)を、そっと指で撫でた。
「……台無しじゃないわ。私、楽しかった。……湊くんが、私の技術を信じてくれたから」
私は、彼のネクタイピンを返した。
「これ、壊れちゃったわ。……あとで、最強の強度に魔改造して返してあげる。だから……また、誘って」
「……約束だよ、カンナさん」
電車が来る。
私は彼に背を向けて走り出した。
顔が真っ赤なのを、見られたくなかったから。
家に帰り、私はシオンにメッセージを送った。
『コードの解析完了。……黒幕は、学園の内部にいる。それも、一ノ瀬くんにとても近い人物よ』
全12話の第5話。
恋のバグは、ついに学園全体を巻き込む巨大な陰謀へと繋がっていった。
私の愛用のレンチは、次なる戦いに備えて、月明かりの下で鋭く光っていた。

つづく
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