『爆走!メカニカル・シンデレラ 〜恋のバグは、無敵のガジェットでも直せません!〜』
第6話:真夜中のサバイバル・ロジック 〜二人の距離は、圏外につき〜
1. サバイバルも「改造」のうち
「……重い。重すぎるわ、カンナっち」
「何を言ってるの、七海。これは備えよ。メカニックにとって『予備パーツがない』のは『酸素がない』のと同じなんだから!」
林間学校の二日目。標高一二〇〇メートルのキャンプ場。
私、如月カンナは、いつものツナギ姿に巨大な「特製サバイバル・バックパック」を背負って仁王立ちしていた。
中身は、予備のバッテリー、小型溶接機、万能レンチ、そして――。
「……カンナ、それは『炊飯器』か?」
後ろから声をかけてきたのは、一ノ瀬湊くんだ。
「あ、湊くん。これはただの炊飯器じゃないわ。太陽光パネル搭載・気圧連動型『自動・極上銀シャリ炊飯マシーン(プロトタイプ)』よ」
「あはは、やっぱり。君が用意すると、キャンプも近未来の実験場みたいだね」
湊くんが爽やかに笑い、私の重すぎる荷物を「半分持つよ」とひょいと持ち上げる。
その瞬間、私の左手首に巻かれた『恋のバグ発見器(改良型:V2)』のLEDが、山火事のようなオレンジ色に明滅した。
(ダメよ、落ち着け私の心臓! 今は林間学校のメイン行事、『オリエンテーリング大会』の真っ最中なんだから!)
今回のルールは、班ごとに山の中に隠されたチェックポイントを回り、キーワードを集めるというもの。
私たちの班は、私、湊くん、そして「カスタム部」の仲間である七海、雷太、シオンの五人。
「……フン、アナログな宝探しだな」
シオンがノートPC(山岳仕様)を叩きながら毒づく。
「いいじゃねえか! 派手な焚き火の準備ならできてるぜ!」
雷太が鼻息荒く薪を抱える。
順調に進むと思われた私たちの前に、この林間学校最大の「バグ」が待ち構えていた。
2. 招かれざる「圏外」の罠
大会の後半、私たちはさらに深い森へと足を踏み入れていた。
その時、シオンが足を止めた。
「……おかしい。GPSがロストした。それに、このエリアだけ不自然に磁場が乱れている」
「え? でも、学校からもらった地図だと、この先に最後のポイントがあるはず……」
私がそう言った瞬間、空が急速に暗くなり、バケツをひっくり返したような豪雨が降り出した。
「うわああ、メイクが落ちるー!」
「雷太、爆薬……じゃなくて薪を濡らすな!」
「みんな、あそこの避難小屋へ!」
湊くんの誘導で、私たちは古びたログハウスに逃げ込んだ。
だが、そこにあったのはただの雨宿り場所ではなかった。
壁一面に貼られた、古い機械図面。そして、中央に鎮座する巨大なアンテナ。
「……これって、学校の旧校舎にあったのと、同じ通信規格のパーツ?」
私は反射的にバッグからマルチドライバーを取り出した。
第4話で学園祭のサーバーを暴走させた「外部ウイルス」。あの時感じた違和感が、この山の奥深くで形を成している。
「シオン、ここ……ただの避難小屋じゃないわ」
「ああ。……『プロジェクトZ』。九条が言っていた、学園の地下に眠る秘密プロジェクトの『中継基地』だ」
その時、ガシャン! という冷たい金属音が響き、唯一の出口である重い扉が閉ざされた。
外部との通信は、完全に圏外。
真っ暗な部屋に、私の『バグ発見器』の明かりだけが虚しく光る。
3. 暗闇のチューニング
「……閉じ込められた、みたいだね」
湊くんの声が、暗闇の中でいつもより低く、耳元に近く響いた。
他の三人は、部屋の奥にある制御盤を調べるために少し離れた場所にいる。
「……ごめんね、湊くん。私が、もっと早くこの場所の異常に気づいていれば」
私は膝を抱えて俯いた。
最強のエンジニアなんて呼ばれていても、結局、肝心なところで大切な人を危険にさらしてしまう。
私の心拍数は、恐怖なのか恋なのかわからないリズムで暴走していた。
「カンナさん」
湊くんが、隣に座って私の肩に手を置いた。
「君の機械は、いつだって誰かを助けるために動いてる。あの日、僕のスマホを空に飛ばしてくれた時から、僕は君の技術を……君のことを、一秒だって疑ったことはないよ」
「……湊くん」
「この場所のバグも、君なら直せる。……そうだろ?」
その言葉は、どんな高出力のバッテリーよりも強く、私の心に電力を流し込んだ。
「……当たり前でしょ。一ノ瀬湊が信じるエンジニアに、直せないものなんてないんだから!」
私は立ち上がり、バッグから最強の武器を取り出した。
「シオン、そのアンテナの指向性を私に回して! 雷太、予備のバッテリーを直列繋ぎで最大出力に! 七海は……私の髪を止めて! 視界を〇・五ミリでも広くしたいの!」
「「「了解(アクセプト)!!」」」
カスタム部のチームワークが、暗闇の中で火花を散らす。
私は、部屋の中枢にある「磁場発生装置」に潜り込んだ。
原因は、経年劣化による回路の短絡(ショート)。
それと――意図的に仕込まれた、妨害チップ。
「……見つけたわ。これね、バグの正体は!」
私はペンチでそのチップを引き抜き、代わりに自分の『バグ発見器』から外した「虹色のLEDチップ」をバイパスとして叩き込んだ。
「……お願い。私のこの、うるさいくらいのドキドキを、電波に変えて――送信!!」
4. 伏線回収:星空のアップデート
バチバチッ! という音とともに、部屋に光が戻った。
アンテナが激しく回転し、妨害磁場を打ち消す逆位相の波を放つ。
それと同時に、ログハウスの扉がゆっくりと開放された。
外に出ると、いつの間にか雨は上がり、空にはこぼれ落ちそうなほどの満天の星が広がっていた。
「……綺麗」
七海がうっとりと呟く。
「見て、GPSも復旧したぞ。救助の先生たちの信号も、すぐそこまで来ている」
シオンの報告に、私たちは安堵の溜息をついた。
「カンナさん」
湊くんが、夜空を見上げながら私を呼んだ。
「君が直してくれたのは、機械だけじゃない。……僕たちの『未来』も、今、繋がった気がする」
湊くんの手が、私の手をそっと包み込む。
いつもならパニックを起こして逃げ出すところだけど、今日の私は、ただその温かさを「受信」していた。
「……ねえ、湊くん。私のこの時計、今は何色に見える?」
私は、チップを抜いて光らなくなったはずの腕時計を差し出した。
湊くんは、星空の光を反射する私の瞳をじっと見つめ、優しく微笑んだ。
「……光ってないけど、わかるよ。きっと、世界で一番温かい『赤』だ」
その瞬間。
私の『バグ発見器』の液晶に、チップがないはずなのに、一つの文字列が浮かび上がった。
【Status: Stable(安定). Loading Next Stage...】
それは、私が無意識に設定していた「真実の愛」への、最初のプロトコル完了の合図だった。
結び:さらなる謎へのリンク
林間学校から戻るバスの中。
私は、ログハウスでこっそり回収した「妨害チップ」をシオンに見せた。
「これ……学園の紋章が入ってるわ」
「……ああ。どうやら『プロジェクトZ』の黒幕は、九条よりももっと近くにいるらしい」
全十二話の折り返し地点。
王子様との恋のチューニングはバッチリ。
でも、私たちの前には、学園最大の謎という「巨大なバグ」が立ちはだかろうとしていた。
「爆走メカニカル・シンデレラ、如月カンナ。……次のバグも、まとめてオーバーホールしてあげるわ!」
私は、隣で眠る湊くんの肩にこっそり頭を預け、次の戦いへのエネルギーを充電した。
つづく
「……重い。重すぎるわ、カンナっち」
「何を言ってるの、七海。これは備えよ。メカニックにとって『予備パーツがない』のは『酸素がない』のと同じなんだから!」
林間学校の二日目。標高一二〇〇メートルのキャンプ場。
私、如月カンナは、いつものツナギ姿に巨大な「特製サバイバル・バックパック」を背負って仁王立ちしていた。
中身は、予備のバッテリー、小型溶接機、万能レンチ、そして――。
「……カンナ、それは『炊飯器』か?」
後ろから声をかけてきたのは、一ノ瀬湊くんだ。
「あ、湊くん。これはただの炊飯器じゃないわ。太陽光パネル搭載・気圧連動型『自動・極上銀シャリ炊飯マシーン(プロトタイプ)』よ」
「あはは、やっぱり。君が用意すると、キャンプも近未来の実験場みたいだね」
湊くんが爽やかに笑い、私の重すぎる荷物を「半分持つよ」とひょいと持ち上げる。
その瞬間、私の左手首に巻かれた『恋のバグ発見器(改良型:V2)』のLEDが、山火事のようなオレンジ色に明滅した。
(ダメよ、落ち着け私の心臓! 今は林間学校のメイン行事、『オリエンテーリング大会』の真っ最中なんだから!)
今回のルールは、班ごとに山の中に隠されたチェックポイントを回り、キーワードを集めるというもの。
私たちの班は、私、湊くん、そして「カスタム部」の仲間である七海、雷太、シオンの五人。
「……フン、アナログな宝探しだな」
シオンがノートPC(山岳仕様)を叩きながら毒づく。
「いいじゃねえか! 派手な焚き火の準備ならできてるぜ!」
雷太が鼻息荒く薪を抱える。
順調に進むと思われた私たちの前に、この林間学校最大の「バグ」が待ち構えていた。
2. 招かれざる「圏外」の罠
大会の後半、私たちはさらに深い森へと足を踏み入れていた。
その時、シオンが足を止めた。
「……おかしい。GPSがロストした。それに、このエリアだけ不自然に磁場が乱れている」
「え? でも、学校からもらった地図だと、この先に最後のポイントがあるはず……」
私がそう言った瞬間、空が急速に暗くなり、バケツをひっくり返したような豪雨が降り出した。
「うわああ、メイクが落ちるー!」
「雷太、爆薬……じゃなくて薪を濡らすな!」
「みんな、あそこの避難小屋へ!」
湊くんの誘導で、私たちは古びたログハウスに逃げ込んだ。
だが、そこにあったのはただの雨宿り場所ではなかった。
壁一面に貼られた、古い機械図面。そして、中央に鎮座する巨大なアンテナ。
「……これって、学校の旧校舎にあったのと、同じ通信規格のパーツ?」
私は反射的にバッグからマルチドライバーを取り出した。
第4話で学園祭のサーバーを暴走させた「外部ウイルス」。あの時感じた違和感が、この山の奥深くで形を成している。
「シオン、ここ……ただの避難小屋じゃないわ」
「ああ。……『プロジェクトZ』。九条が言っていた、学園の地下に眠る秘密プロジェクトの『中継基地』だ」
その時、ガシャン! という冷たい金属音が響き、唯一の出口である重い扉が閉ざされた。
外部との通信は、完全に圏外。
真っ暗な部屋に、私の『バグ発見器』の明かりだけが虚しく光る。
3. 暗闇のチューニング
「……閉じ込められた、みたいだね」
湊くんの声が、暗闇の中でいつもより低く、耳元に近く響いた。
他の三人は、部屋の奥にある制御盤を調べるために少し離れた場所にいる。
「……ごめんね、湊くん。私が、もっと早くこの場所の異常に気づいていれば」
私は膝を抱えて俯いた。
最強のエンジニアなんて呼ばれていても、結局、肝心なところで大切な人を危険にさらしてしまう。
私の心拍数は、恐怖なのか恋なのかわからないリズムで暴走していた。
「カンナさん」
湊くんが、隣に座って私の肩に手を置いた。
「君の機械は、いつだって誰かを助けるために動いてる。あの日、僕のスマホを空に飛ばしてくれた時から、僕は君の技術を……君のことを、一秒だって疑ったことはないよ」
「……湊くん」
「この場所のバグも、君なら直せる。……そうだろ?」
その言葉は、どんな高出力のバッテリーよりも強く、私の心に電力を流し込んだ。
「……当たり前でしょ。一ノ瀬湊が信じるエンジニアに、直せないものなんてないんだから!」
私は立ち上がり、バッグから最強の武器を取り出した。
「シオン、そのアンテナの指向性を私に回して! 雷太、予備のバッテリーを直列繋ぎで最大出力に! 七海は……私の髪を止めて! 視界を〇・五ミリでも広くしたいの!」
「「「了解(アクセプト)!!」」」
カスタム部のチームワークが、暗闇の中で火花を散らす。
私は、部屋の中枢にある「磁場発生装置」に潜り込んだ。
原因は、経年劣化による回路の短絡(ショート)。
それと――意図的に仕込まれた、妨害チップ。
「……見つけたわ。これね、バグの正体は!」
私はペンチでそのチップを引き抜き、代わりに自分の『バグ発見器』から外した「虹色のLEDチップ」をバイパスとして叩き込んだ。
「……お願い。私のこの、うるさいくらいのドキドキを、電波に変えて――送信!!」
4. 伏線回収:星空のアップデート
バチバチッ! という音とともに、部屋に光が戻った。
アンテナが激しく回転し、妨害磁場を打ち消す逆位相の波を放つ。
それと同時に、ログハウスの扉がゆっくりと開放された。
外に出ると、いつの間にか雨は上がり、空にはこぼれ落ちそうなほどの満天の星が広がっていた。
「……綺麗」
七海がうっとりと呟く。
「見て、GPSも復旧したぞ。救助の先生たちの信号も、すぐそこまで来ている」
シオンの報告に、私たちは安堵の溜息をついた。
「カンナさん」
湊くんが、夜空を見上げながら私を呼んだ。
「君が直してくれたのは、機械だけじゃない。……僕たちの『未来』も、今、繋がった気がする」
湊くんの手が、私の手をそっと包み込む。
いつもならパニックを起こして逃げ出すところだけど、今日の私は、ただその温かさを「受信」していた。
「……ねえ、湊くん。私のこの時計、今は何色に見える?」
私は、チップを抜いて光らなくなったはずの腕時計を差し出した。
湊くんは、星空の光を反射する私の瞳をじっと見つめ、優しく微笑んだ。
「……光ってないけど、わかるよ。きっと、世界で一番温かい『赤』だ」
その瞬間。
私の『バグ発見器』の液晶に、チップがないはずなのに、一つの文字列が浮かび上がった。
【Status: Stable(安定). Loading Next Stage...】
それは、私が無意識に設定していた「真実の愛」への、最初のプロトコル完了の合図だった。
結び:さらなる謎へのリンク
林間学校から戻るバスの中。
私は、ログハウスでこっそり回収した「妨害チップ」をシオンに見せた。
「これ……学園の紋章が入ってるわ」
「……ああ。どうやら『プロジェクトZ』の黒幕は、九条よりももっと近くにいるらしい」
全十二話の折り返し地点。
王子様との恋のチューニングはバッチリ。
でも、私たちの前には、学園最大の謎という「巨大なバグ」が立ちはだかろうとしていた。
「爆走メカニカル・シンデレラ、如月カンナ。……次のバグも、まとめてオーバーホールしてあげるわ!」
私は、隣で眠る湊くんの肩にこっそり頭を預け、次の戦いへのエネルギーを充電した。
つづく