『爆走!メカニカル・シンデレラ 〜恋のバグは、無敵のガジェットでも直せません!〜』
第7話:零号機のシンデレラ 〜その手、上書き(アクセス)禁止!〜
1. 唇までの距離、零コンマ数ミリ
「……ちょっと、湊くん。近すぎる。心拍数が……回路の設計限界を突破しちゃうわ」
放課後の第3工芸準備室。西日が差し込む密室で、私、如月カンナは文字通り「壁」に追い詰められていた。
湊くんの腕が、私の耳の横で壁を叩く。いわゆる『壁ドン』というやつだ。でも、今の状況はもっと深刻。
「カンナさん。林間学校で手を繋いだ時、君の時計は『赤』だったよね。……それ、どういう意味か、僕なりに解析(プログラミング)してみたんだ」
湊くんの顔がゆっくりと近づく。彼のミルクティー色の髪が私の頬に触れ、シトラスの香りが鼻腔をくすぐる。
いつもは爽やかな王子の瞳が、今は獲物を狙うハッカーのように鋭く、熱い。
「あ、あの……! 赤は……熱源検知というか、ただのオーバーヒートで……っ」
「嘘だ。……君の心は今、僕だけにフルアクセスしてる。違う?」
湊くんの指先が、私の汚れたツナギの襟元に触れる。その瞬間、私の思考回路は完全にショートした。
第1話でスマホを飛ばし、第4話でドレスを纏って空を舞った無敵のメカニック女子は、今やただの「恋する女の子」として、彼の熱量に溶かされそうになっていた。
「湊くん、私……」
言わなきゃ。私のこのバグは、もう修理不能で、あなたというOSがないと起動すらできないんだって。
でも、その告白を遮るように、私の腰のポーチに忍ばせたインカムから、シオンの切迫した声が響いた。
『――カンナ、湊! 今すぐそこを離れろ! 「検閲官(センサー)」がそっちへ向かっている!』
2. 「プロジェクトZ」の正体
「……チッ、お邪魔虫だね」
湊くんが不機嫌そうに顔を離す。私は心臓が飛び出しそうなのを必死に抑え、工具バッグを掴んだ。
ガラッ! と扉が開くと同時に踏み込んできたのは、銀色のバッジを胸につけた、感情の欠片もない制服姿の生徒たち。学園の「特別風紀維持部隊」、通称・センサーだ。
「如月カンナ。および一ノ瀬湊。許可のない工作活動、および不適切な親密行為を確認。……所持している工作器具をすべて没収する」
「……なんですって?」
私の体温が、恋の熱から一転、怒りで沸騰した。
メカニックにとって、工具を奪われるのは魂を削られるのと同じだ。
「どいて。私のレンチに触れたら、タダじゃおかないわよ」
「強情だな。……『零(ゼロ)の法則』に従い、強制排除する」
彼らが取り出したのは、私が第6話で回収した「妨害チップ」と酷似した、黒いデバイスだった。
スイッチが入った瞬間、部屋中の電子機器が悲鳴を上げ、照明が激しく点滅する。
シオンとの通信が途切れ、雷太の仕掛けた防犯アラートも沈黙した。
「カンナさん、僕の後ろへ!」
湊くんが私を庇うように前に出る。
だが、部隊のリーダー格の少年が、冷たく言い放った。
「一ノ瀬湊。君の祖父である理事長が、この『プロジェクトZ』の出資者であることを忘れたか? 君の役割は、彼女を監視すること。……愛することではない」
「……っ!」
湊くんの背中が、微かに震えた。
伏線が、音を立てて繋がっていく。
第1話で湊くんが「僕には叶えたい願いがある」と言っていたこと。
第4話で、彼が学園のシステムに詳しすぎた理由。
彼は、この学園を支配する側の人間だったのだ。
3. 壊れた工具と、折れない心
「湊くん……嘘……だよね?」
私の問いかけに、湊くんは振り返らない。
そのまま、センサーの部隊によって、私の大切な工具バッグが奪い去られていく。
第1話からずっと一緒に戦ってきたマルチドライバーも、湊くんのスマホを直したペンチも。
「……連れて行け」
湊くんの声は、氷のように冷たかった。
彼は私を見ることなく、センサーの部隊と共に部屋を出て行った。
一人残された工芸準備室。
夕陽が沈み、部屋は急速に冷えていく。
「……何よ。最強のエンジニアが、形無しじゃない」
ポツリ、と涙が手の甲に落ちた。
機械は直せば動く。でも、壊れた信頼はどうやって直せばいい?
心の中の設計図がバラバラに散らばって、再構築(リカバリ)の方法が見当たらない。
その時だった。
床に転がっていた「ガラクタ」が、小さくピピッ、と鳴った。
それは、湊くんがずっと持っていた、あの「空飛ぶスマホ」だった。
画面には、一通の未送信メッセージが残されていた。
【カンナさんへ。もし僕が君を突き放すようなことがあっても、僕の『真のパスワード』を信じて。……銀色の、五ミリの隙間】
「……銀色の、五ミリ……?」
私は涙を拭い、必死に記憶を検索(サーチ)した。
銀色の、五ミリ。
それは、第1話で私が彼のスマホを魔改造した時に、どうしても噛み合わせが合わずに残ってしまった、わずかな「設計上のミス」の場所。
私はそこに、小さな小さな「秘密のバックドア」を隠していたのだ。
4. 逆転のロジック:世界観の再起動
「……そうか。あいつ、わざと……!」
私は立ち上がった。
湊くんが私を突き放したのは、私の安全を守るため。そして、敵の懐深くへ私を「ハッキング」させるためだ。
彼は、私が自分のミス(バグ)すらも武器に変えることを信じていた。
「シオン、七海、雷太! 聞こえる!?」
私は、部屋の隅に隠していた予備の「超小型はんだごて」を握りしめた。
『……生きてたか、カンナ。通信をジャックされた。学園の全データが「プロジェクトZ」――生徒の感情を数値化し、管理するAIへと統合され始めている』
『カンナっち! 一ノ瀬くんが、理事長室に連行されたわ! 婚約者だって名乗る、謎の「シルバーヘアの美少女」と一緒に!』
「……婚約者!? ちょっと、それ、もっと早く言いなさいよ!」
私の胸の中で、新たなバグ――「嫉妬」という名の高出力モーターが回転を始めた。
「プロジェクトZだろうが、婚約者だろうが、まとめてオーバーホールしてあげるわ。……私の王子様に上書き(アクセス)していいのは、この私だけよ!」
私は、奪われなかった唯一の道具――湊くんから贈られた「ギアの形のヘアピン」を、工具代わりに手際よく使い、封印された緊急脱出口の電子ロックを物理的に破壊(バイパス)した。
5. 伏線回収:シンデレラの「本性」
第7話のラスト。
私は、学園の地下深くへと続く隠し階段を駆け下りていた。
そこにあったのは、巨大なスーパーコンピュータと、無数のカプセル。
「……これが、零号機の正体……?」
中央のモニターに映し出されたのは、幼い頃の私と……若き日の湊くんが、一緒にロボットを組み立てている写真だった。
私たちは、出会うべくして出会ったのではない。
「プロジェクトZ」の「素体」として、幼い頃から運命を操作されていたのだ。
「……上等じゃない。運命がプログラミングされてるなら、根こそぎデバッグしてやるわ!」
私は、髪を留めていたギアのヘアピンを口に咥え、暗闇の中で瞳を野獣のように光らせた。
第1話で「直せないのは終わった恋くらい」と言った私へ、今の私がアンサーを返す。
「……訂正するわ。終わった恋も、バグだらけの運命も、全部私が『完全修復』してみせる!」
その時、地下室のスピーカーから、聞き慣れた、でも冷酷な湊くんの声が響いた。
『……ターゲット確認。如月カンナ。……抹消を開始する』
目の前に現れたのは、湊くんが操る、私自身の設計思想を完全にコピーした「殺戮のシンデレラ(機械兵)」。
愛する人が作った最強の敵に、私は愛用のレンチなしで立ち向かう。
「待ってなさい湊くん。……今すぐ、その冷たい仮面を、私の愛(物理)でぶち壊してあげるから!」
爆走メカニカル・シンデレラ。
恋の回路は今、最大電圧(オーバーボルト)で焼き切れそうに輝いていた。
つづく
「……ちょっと、湊くん。近すぎる。心拍数が……回路の設計限界を突破しちゃうわ」
放課後の第3工芸準備室。西日が差し込む密室で、私、如月カンナは文字通り「壁」に追い詰められていた。
湊くんの腕が、私の耳の横で壁を叩く。いわゆる『壁ドン』というやつだ。でも、今の状況はもっと深刻。
「カンナさん。林間学校で手を繋いだ時、君の時計は『赤』だったよね。……それ、どういう意味か、僕なりに解析(プログラミング)してみたんだ」
湊くんの顔がゆっくりと近づく。彼のミルクティー色の髪が私の頬に触れ、シトラスの香りが鼻腔をくすぐる。
いつもは爽やかな王子の瞳が、今は獲物を狙うハッカーのように鋭く、熱い。
「あ、あの……! 赤は……熱源検知というか、ただのオーバーヒートで……っ」
「嘘だ。……君の心は今、僕だけにフルアクセスしてる。違う?」
湊くんの指先が、私の汚れたツナギの襟元に触れる。その瞬間、私の思考回路は完全にショートした。
第1話でスマホを飛ばし、第4話でドレスを纏って空を舞った無敵のメカニック女子は、今やただの「恋する女の子」として、彼の熱量に溶かされそうになっていた。
「湊くん、私……」
言わなきゃ。私のこのバグは、もう修理不能で、あなたというOSがないと起動すらできないんだって。
でも、その告白を遮るように、私の腰のポーチに忍ばせたインカムから、シオンの切迫した声が響いた。
『――カンナ、湊! 今すぐそこを離れろ! 「検閲官(センサー)」がそっちへ向かっている!』
2. 「プロジェクトZ」の正体
「……チッ、お邪魔虫だね」
湊くんが不機嫌そうに顔を離す。私は心臓が飛び出しそうなのを必死に抑え、工具バッグを掴んだ。
ガラッ! と扉が開くと同時に踏み込んできたのは、銀色のバッジを胸につけた、感情の欠片もない制服姿の生徒たち。学園の「特別風紀維持部隊」、通称・センサーだ。
「如月カンナ。および一ノ瀬湊。許可のない工作活動、および不適切な親密行為を確認。……所持している工作器具をすべて没収する」
「……なんですって?」
私の体温が、恋の熱から一転、怒りで沸騰した。
メカニックにとって、工具を奪われるのは魂を削られるのと同じだ。
「どいて。私のレンチに触れたら、タダじゃおかないわよ」
「強情だな。……『零(ゼロ)の法則』に従い、強制排除する」
彼らが取り出したのは、私が第6話で回収した「妨害チップ」と酷似した、黒いデバイスだった。
スイッチが入った瞬間、部屋中の電子機器が悲鳴を上げ、照明が激しく点滅する。
シオンとの通信が途切れ、雷太の仕掛けた防犯アラートも沈黙した。
「カンナさん、僕の後ろへ!」
湊くんが私を庇うように前に出る。
だが、部隊のリーダー格の少年が、冷たく言い放った。
「一ノ瀬湊。君の祖父である理事長が、この『プロジェクトZ』の出資者であることを忘れたか? 君の役割は、彼女を監視すること。……愛することではない」
「……っ!」
湊くんの背中が、微かに震えた。
伏線が、音を立てて繋がっていく。
第1話で湊くんが「僕には叶えたい願いがある」と言っていたこと。
第4話で、彼が学園のシステムに詳しすぎた理由。
彼は、この学園を支配する側の人間だったのだ。
3. 壊れた工具と、折れない心
「湊くん……嘘……だよね?」
私の問いかけに、湊くんは振り返らない。
そのまま、センサーの部隊によって、私の大切な工具バッグが奪い去られていく。
第1話からずっと一緒に戦ってきたマルチドライバーも、湊くんのスマホを直したペンチも。
「……連れて行け」
湊くんの声は、氷のように冷たかった。
彼は私を見ることなく、センサーの部隊と共に部屋を出て行った。
一人残された工芸準備室。
夕陽が沈み、部屋は急速に冷えていく。
「……何よ。最強のエンジニアが、形無しじゃない」
ポツリ、と涙が手の甲に落ちた。
機械は直せば動く。でも、壊れた信頼はどうやって直せばいい?
心の中の設計図がバラバラに散らばって、再構築(リカバリ)の方法が見当たらない。
その時だった。
床に転がっていた「ガラクタ」が、小さくピピッ、と鳴った。
それは、湊くんがずっと持っていた、あの「空飛ぶスマホ」だった。
画面には、一通の未送信メッセージが残されていた。
【カンナさんへ。もし僕が君を突き放すようなことがあっても、僕の『真のパスワード』を信じて。……銀色の、五ミリの隙間】
「……銀色の、五ミリ……?」
私は涙を拭い、必死に記憶を検索(サーチ)した。
銀色の、五ミリ。
それは、第1話で私が彼のスマホを魔改造した時に、どうしても噛み合わせが合わずに残ってしまった、わずかな「設計上のミス」の場所。
私はそこに、小さな小さな「秘密のバックドア」を隠していたのだ。
4. 逆転のロジック:世界観の再起動
「……そうか。あいつ、わざと……!」
私は立ち上がった。
湊くんが私を突き放したのは、私の安全を守るため。そして、敵の懐深くへ私を「ハッキング」させるためだ。
彼は、私が自分のミス(バグ)すらも武器に変えることを信じていた。
「シオン、七海、雷太! 聞こえる!?」
私は、部屋の隅に隠していた予備の「超小型はんだごて」を握りしめた。
『……生きてたか、カンナ。通信をジャックされた。学園の全データが「プロジェクトZ」――生徒の感情を数値化し、管理するAIへと統合され始めている』
『カンナっち! 一ノ瀬くんが、理事長室に連行されたわ! 婚約者だって名乗る、謎の「シルバーヘアの美少女」と一緒に!』
「……婚約者!? ちょっと、それ、もっと早く言いなさいよ!」
私の胸の中で、新たなバグ――「嫉妬」という名の高出力モーターが回転を始めた。
「プロジェクトZだろうが、婚約者だろうが、まとめてオーバーホールしてあげるわ。……私の王子様に上書き(アクセス)していいのは、この私だけよ!」
私は、奪われなかった唯一の道具――湊くんから贈られた「ギアの形のヘアピン」を、工具代わりに手際よく使い、封印された緊急脱出口の電子ロックを物理的に破壊(バイパス)した。
5. 伏線回収:シンデレラの「本性」
第7話のラスト。
私は、学園の地下深くへと続く隠し階段を駆け下りていた。
そこにあったのは、巨大なスーパーコンピュータと、無数のカプセル。
「……これが、零号機の正体……?」
中央のモニターに映し出されたのは、幼い頃の私と……若き日の湊くんが、一緒にロボットを組み立てている写真だった。
私たちは、出会うべくして出会ったのではない。
「プロジェクトZ」の「素体」として、幼い頃から運命を操作されていたのだ。
「……上等じゃない。運命がプログラミングされてるなら、根こそぎデバッグしてやるわ!」
私は、髪を留めていたギアのヘアピンを口に咥え、暗闇の中で瞳を野獣のように光らせた。
第1話で「直せないのは終わった恋くらい」と言った私へ、今の私がアンサーを返す。
「……訂正するわ。終わった恋も、バグだらけの運命も、全部私が『完全修復』してみせる!」
その時、地下室のスピーカーから、聞き慣れた、でも冷酷な湊くんの声が響いた。
『……ターゲット確認。如月カンナ。……抹消を開始する』
目の前に現れたのは、湊くんが操る、私自身の設計思想を完全にコピーした「殺戮のシンデレラ(機械兵)」。
愛する人が作った最強の敵に、私は愛用のレンチなしで立ち向かう。
「待ってなさい湊くん。……今すぐ、その冷たい仮面を、私の愛(物理)でぶち壊してあげるから!」
爆走メカニカル・シンデレラ。
恋の回路は今、最大電圧(オーバーボルト)で焼き切れそうに輝いていた。
つづく