丘の上の小さな 美容室
街中から住宅街へ。住宅街から自然の多い並木道へ。
並木道は一本道で、鼻をグズグズ鳴らしながらとろとろ歩いた。
浮気されて二股かけられて、気持ちが冷めたとは言え、傷ついてないわけではない。ハンカチであとからあとから出てくる涙を拭き、気づいたら来たことのない場所にたどり着いていた。
辺りを見回す。
前も後ろも並木道の一本道。その先に、小さな丘。その上に、小さな平屋がちょこんと建っていた。
道は小丘をくねくねと曲がり、あたしは誘われるままにその道を辿り上がっていく。着いた先は、小さな平屋が一件。その前に木の看板があり、美容室MIOと絵の具で書かれていた。
美容室。こんな辺鄙な場所に。しかもあたしと同じ名前だ。
あたしは自分の髪に指先で触れた。
忙しかったせいで手入れが行き届かず、枝毛はあるし、傷んでいる。
さっき別れた彼氏はふわふわな猫毛みたいなこの髪が好きだと言った。パーマは掛けてないがウェーブのかかった栗色の髪。鎖骨辺りまで伸びていて、そろそろ切りたいと思っていた。今日は軽くアイロンで巻いて気合を入れてきたのに、彼氏はそれすら見ずに別れをどのように伝えようか懸命だった。
もう捨てようとしている彼女に可愛いとか綺麗は求めないか。
そりゃそうだ。
あたしはちら、と美容室の看板を見た。
予約ないと、やっぱり難しいかな。
ダメ元で、行ってみるか。
木のドアの、丸いドアノブを回しドアを引くと、ちりんとベルが鳴った。
そっと中を覗くと、美容室特有の匂い、大きな鏡の前に回転椅子が一つ。
あたしはそっと足を踏み入れた。後ろでパタンとドアが閉まる。
ドライフラワーが天井から吊るされている。
暖色のランプがほっとする。
ラジカセから流れるオルゴール曲。
ドアを開けたすぐ横には、待ち椅子なのか、黒い椅子が二つと、テーブルが設置してある。
のんびり店内を見ていたら、奥の暖簾の隙間から、人影が見えて「ひっ」と息を呑んだ。
茶髪のショートカットの、男性だ。腰には美容師特有の鞄にハサミが何個かさしてある。
身長は高く、ガタイもしっかりしている。暖簾を上げてその姿を現した彼の、黒いTシャツからはみ出た二の腕の筋肉が盛り上がる。迫力ある雰囲気に、あたしは一歩後退る。
顔を確認したかったが、前髪が長く目に掛かりよく分からない。表情が読めない。
なによ。勝手に入って怒ってるのかしら。
開いてたわよ。でもオープンの札はなかったっけ。
定休日だった?でも、鍵は開いてたわよ。
男性は一歩一歩近づいてくる。あたしは一歩一歩後退り、壁に背をついてしまいぎゅっと目を瞑った。
「か、勝手に入ったのはごめんなさいっ。でも開いてたし、誰もいないし、だから、あの」
聞いているのかいないのか、男性はじっとこちらを睨みつけ、ゆっくりと手が伸びてきて、あたしはびくりと肩を揺らした。けれど、予想に反してその手は優しく、そっと一房髪を摘まんだだけだった。
並木道は一本道で、鼻をグズグズ鳴らしながらとろとろ歩いた。
浮気されて二股かけられて、気持ちが冷めたとは言え、傷ついてないわけではない。ハンカチであとからあとから出てくる涙を拭き、気づいたら来たことのない場所にたどり着いていた。
辺りを見回す。
前も後ろも並木道の一本道。その先に、小さな丘。その上に、小さな平屋がちょこんと建っていた。
道は小丘をくねくねと曲がり、あたしは誘われるままにその道を辿り上がっていく。着いた先は、小さな平屋が一件。その前に木の看板があり、美容室MIOと絵の具で書かれていた。
美容室。こんな辺鄙な場所に。しかもあたしと同じ名前だ。
あたしは自分の髪に指先で触れた。
忙しかったせいで手入れが行き届かず、枝毛はあるし、傷んでいる。
さっき別れた彼氏はふわふわな猫毛みたいなこの髪が好きだと言った。パーマは掛けてないがウェーブのかかった栗色の髪。鎖骨辺りまで伸びていて、そろそろ切りたいと思っていた。今日は軽くアイロンで巻いて気合を入れてきたのに、彼氏はそれすら見ずに別れをどのように伝えようか懸命だった。
もう捨てようとしている彼女に可愛いとか綺麗は求めないか。
そりゃそうだ。
あたしはちら、と美容室の看板を見た。
予約ないと、やっぱり難しいかな。
ダメ元で、行ってみるか。
木のドアの、丸いドアノブを回しドアを引くと、ちりんとベルが鳴った。
そっと中を覗くと、美容室特有の匂い、大きな鏡の前に回転椅子が一つ。
あたしはそっと足を踏み入れた。後ろでパタンとドアが閉まる。
ドライフラワーが天井から吊るされている。
暖色のランプがほっとする。
ラジカセから流れるオルゴール曲。
ドアを開けたすぐ横には、待ち椅子なのか、黒い椅子が二つと、テーブルが設置してある。
のんびり店内を見ていたら、奥の暖簾の隙間から、人影が見えて「ひっ」と息を呑んだ。
茶髪のショートカットの、男性だ。腰には美容師特有の鞄にハサミが何個かさしてある。
身長は高く、ガタイもしっかりしている。暖簾を上げてその姿を現した彼の、黒いTシャツからはみ出た二の腕の筋肉が盛り上がる。迫力ある雰囲気に、あたしは一歩後退る。
顔を確認したかったが、前髪が長く目に掛かりよく分からない。表情が読めない。
なによ。勝手に入って怒ってるのかしら。
開いてたわよ。でもオープンの札はなかったっけ。
定休日だった?でも、鍵は開いてたわよ。
男性は一歩一歩近づいてくる。あたしは一歩一歩後退り、壁に背をついてしまいぎゅっと目を瞑った。
「か、勝手に入ったのはごめんなさいっ。でも開いてたし、誰もいないし、だから、あの」
聞いているのかいないのか、男性はじっとこちらを睨みつけ、ゆっくりと手が伸びてきて、あたしはびくりと肩を揺らした。けれど、予想に反してその手は優しく、そっと一房髪を摘まんだだけだった。