丘の上の小さな 美容室
「なによ、それ」
「男なら誰でも良かったんじゃないですか」
「どーゆーことよ」
「初めて会った日、今日の客に優しくされていたら慰められていたかもしれませんよね」
 突拍子もないことを言う。
 そんなことはなかったから、今、あたしは美織とこうして甘い時間を過ごして愛しているのに。
 どうしてここで、今日のお客さんと美織を入れ替えた話をするのだろう。
 それよりも、美織の言葉に腹が立った。
 男なら誰でも良かったですって?あたしのこと、誰にでも体を許す軽い女だと思っていたってことかしら。
 沸々と、怒りが湧いてきてあたしは美織に背を向けた。ベッドから降り散らばった服を身につける。
「……そうかもね。男なら誰でもよかったかもね」
 あたしの言葉にはっと顔を上げ、まずいと慌ててあたしの手を取る美織の手を振り払う。
「深青、ちが、そうじゃなくて」
 あたしは背を向けたまま、気丈に振る舞う。今すぐ泣きそうだったけれど、声が震えないように少し大きめの声で話す。
「そうよね。あなたのことセフレだってずーっと思ってたんだもの。ふしだらな女で悪かったわね。あたしみたいなのよりあなたに一途で可愛い撫子さんと結婚したら?!」
「なんで撫子さんが出てくるんですか」
 引き合いに出すのはなぜかいつも撫子さんになってしまう。だって、美織は撫子さんと並ぶととても綺麗だ。あたしと並ぶよりも、美男美女。
 服を全部着て、鞄を引っ掴みコートを持って玄関まで歩く。
「深青、どこに行くんですか」
 素っ裸で追いかけてくる美織を無視してブーツを履く。
「出てく」
「深青」
「離婚よ!」
「っ、深青、冗談」
「本気だからっ、さよーならっ」
 振り向くと、耐えきれなかった涙が遠心力で空気の中に散った。
 美織の美しい筋肉を最後に、あたしは家を出て行った。

 そして、喫茶店に駆け込んだ。
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