丘の上の小さな 美容室
撫子さんはあたしの話を興味なさそうに聞きながら、二個目のケーキにフォークを刺した。一個目はモンブラン、二個目はいちごのショートケーキだ。
「私、いつも引き合いに出されて割と傷ついてるわよ。美織のこと、もう何とも思ってないけど選ばれない悲しさには慣れないわ」
「ごめんなさい」
「認めた」
「あ、そうじゃなくて」
「いいけど。それより、いいこと思いついちゃった」
撫子さんはいちごを刺したフォークをお行儀悪く小さく左右に振りながらにま、と笑う。
あ、恵に似ているな、と思う。
「お兄ちゃんと浮気してみたら」
飲みかけた珈琲でむせた。けほけほ、と咳き込むが、撫子さんはいちごを振りかざしたまま楽しそうに話すのをやめない。
「お兄ちゃん、軽い男だけど割と本気で深青さんのこと好きよ」
あたしは口元を紙ナプキンで拭いて沈黙した。
恵があたしを好きなことは、ついこの間知った。美織の浮気疑惑騒動に巻き込み、流れで恵はあたしを好きな子だと言った。きっと言うつもりはなかったんだろうと思う。親友のパートナーだもの。でも、美織は知っていたっぽいけど。
あれから恵は何事もなかったかのようにサロンに来て施術を受けていく。特に指名はなく、その時空いているスタッフが施術をする。
深青ちゃんはもちろん、千紗ちゃんも凛ちゃんも上手いから誰でもいいかな〜と言っていた。
そう、何事もなかったかのように振る舞っているのだから、それでいいじゃない。恵の想いには応えられないし、恵もそれはわかっている。
でも目の前の恵の妹は、そうではないみたい。
隙を見て、恵とあたしをデートさせて拗れる様を見てみたい、と面白がっているのが丸わかりだ。
あたしは拒否しようとした。
けれど撫子さんは上目遣いをして、両手を合わせておねだりポーズを取る。
「ね、内緒でデート、してあげてよ。お兄ちゃんの思い出作りだと思ってさ」
「そんなことしたら美織に何されるかわからないから嫌」
きっぱり拒否したが、撫子さんは引き下がらない。
「離婚するんでしょ?」
「それは、……売り言葉に買い言葉というか。とにかく、恵とデートはしないわよ」
「そこをなんとか。ね?美織を慌てさせてやればいいのよ」
「慌てさせるって……」
あたしは素っ裸で玄関まで追いかけてきた美織を思い出す。離婚よ!と叫んだときの美織の慌てた表情を思い出す。絶望も垣間見えて、あたしの方が悪いことをしたかのような気持ちになっていた。
「充分、慌てさせたわよ。帰るわ」
「えー。つまんない」
「相談料としてケーキ代は払うわ」
「そ?ラッキ。ごちそうさまです」
まだ完食してない撫子さんに別れを告げてお会計を終え、喫茶店のドアを開けた。
さて、戻ろう。
離婚のことは謝ろう。本気だなんて思ってないってちゃんと言おう。でも美織の言ったことは許せない。あたしが美織以外似惚れ込むなんてありえないんだから、そこは反省してもらわねば。
よし、と意気込み丘の上の美容室に向かおうと足を動かしたとき。
「深青ちゃん、見っけ」
「私、いつも引き合いに出されて割と傷ついてるわよ。美織のこと、もう何とも思ってないけど選ばれない悲しさには慣れないわ」
「ごめんなさい」
「認めた」
「あ、そうじゃなくて」
「いいけど。それより、いいこと思いついちゃった」
撫子さんはいちごを刺したフォークをお行儀悪く小さく左右に振りながらにま、と笑う。
あ、恵に似ているな、と思う。
「お兄ちゃんと浮気してみたら」
飲みかけた珈琲でむせた。けほけほ、と咳き込むが、撫子さんはいちごを振りかざしたまま楽しそうに話すのをやめない。
「お兄ちゃん、軽い男だけど割と本気で深青さんのこと好きよ」
あたしは口元を紙ナプキンで拭いて沈黙した。
恵があたしを好きなことは、ついこの間知った。美織の浮気疑惑騒動に巻き込み、流れで恵はあたしを好きな子だと言った。きっと言うつもりはなかったんだろうと思う。親友のパートナーだもの。でも、美織は知っていたっぽいけど。
あれから恵は何事もなかったかのようにサロンに来て施術を受けていく。特に指名はなく、その時空いているスタッフが施術をする。
深青ちゃんはもちろん、千紗ちゃんも凛ちゃんも上手いから誰でもいいかな〜と言っていた。
そう、何事もなかったかのように振る舞っているのだから、それでいいじゃない。恵の想いには応えられないし、恵もそれはわかっている。
でも目の前の恵の妹は、そうではないみたい。
隙を見て、恵とあたしをデートさせて拗れる様を見てみたい、と面白がっているのが丸わかりだ。
あたしは拒否しようとした。
けれど撫子さんは上目遣いをして、両手を合わせておねだりポーズを取る。
「ね、内緒でデート、してあげてよ。お兄ちゃんの思い出作りだと思ってさ」
「そんなことしたら美織に何されるかわからないから嫌」
きっぱり拒否したが、撫子さんは引き下がらない。
「離婚するんでしょ?」
「それは、……売り言葉に買い言葉というか。とにかく、恵とデートはしないわよ」
「そこをなんとか。ね?美織を慌てさせてやればいいのよ」
「慌てさせるって……」
あたしは素っ裸で玄関まで追いかけてきた美織を思い出す。離婚よ!と叫んだときの美織の慌てた表情を思い出す。絶望も垣間見えて、あたしの方が悪いことをしたかのような気持ちになっていた。
「充分、慌てさせたわよ。帰るわ」
「えー。つまんない」
「相談料としてケーキ代は払うわ」
「そ?ラッキ。ごちそうさまです」
まだ完食してない撫子さんに別れを告げてお会計を終え、喫茶店のドアを開けた。
さて、戻ろう。
離婚のことは謝ろう。本気だなんて思ってないってちゃんと言おう。でも美織の言ったことは許せない。あたしが美織以外似惚れ込むなんてありえないんだから、そこは反省してもらわねば。
よし、と意気込み丘の上の美容室に向かおうと足を動かしたとき。
「深青ちゃん、見っけ」