丘の上の小さな 美容室

深青と美織


 やってしまったわ。
 目が覚めたらそこは見知らぬ天井。
 いや、見知らなくはない。
 昨日確かに知り合いになった天井だ。
 隣りで眠るガタイのいい美容師の背景だった天井だ。
 あーもーあたしのバカ。
 どうして昨日会ったばかりの男に欲情して、しかも、あたしから、挑発してしまった。
 ちら、と眠る美容師を見た。
 長い前髪で見えなかった素顔が今は見える。
 上半身を起こしタオルケットで胸まで隠しながら、美容師の前髪をそっと指先で払う。
 男前。美丈夫。綺麗な顔。眉は太くキリッとしていて、今は閉じられている目は切れ長で鋭い。
 そんな彼に高揚しない女はいないと思うが、まさか、自分がこんなふしだらな行動に出るなんて……。
 理由はわかっている。
 失恋して、寂しくて、裏切られた心はズタズタで。壊れた恋は何度もしてきて慣れていたけど、何度もすればやっぱり疲弊していて。
 そんなときに美容師に出会って。
 美容師はまるで愛の告白をするみたいにあたしの髪を口説いて綺麗にしてくれた。
 美容師のくせに女慣れしてない彼に飛びついて、赤くなった美容師を誂って。
 それがいけなかったんだわ。
 男を舐めるな、と言われたのに。その鋭い目を向けられて、なぜか美容師を欲しくなってしまって。
 あたしは、廃れた心を癒すために目の前の男を利用したのだ。
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