冷徹CEOと、一夜から始まる溺愛契約

「……わかった」

彼が立ち上がる。

「採用だ」

「え?」

呆然とする私を余所に、彼は手元の書類を無造作にまとめた。

「来月から出社しろ。詳細は、人事から追って連絡させる」

「あの……面接は、これで終わりですか? 他に質問は……」

「ない。お前で決まりだ」

彼はそう言い捨てて、流れるような動作でドアへ向かう。

だけど、ノブに手をかけたところで、その動きが止まった。

背中を向けたまま、低く囁く。

「……よく来たな、紗良」

その一言に、心臓が跳ねる。

「湊、さん……?」

わずかに顔を向けた彼の瞳には――冷徹なCEOの仮面を焼き切るような、あの夜と同じ熱い光が宿っていた。

「今夜、話がある。七時に一階のロビーで待ってろ」

「え……」

「命令だ。絶対に来い」

抗いようのない支配的な響き。

彼はそのまま、一度も振り返ることなく部屋を出て行った。

私は一人、応接室に残された。

心臓の音だけが、やけに大きく響いている。

これは、偶然なの? それとも――。

わからない。ただ一つ確かなのは、今夜、彼と再び会うということだけ。

止まっていた私の時間が今、猛烈な勢いで動き出そうとしていた。
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