冷徹CEOと、一夜から始まる溺愛契約
彼の瞳が、一瞬だけ大きく揺れた。明らかに、驚いている。
だが次の瞬間、彼は氷のような無表情に戻った。まるで、感情を遮断する仮面を被るように。
「……座ってください」
その声は、あの夜とは違う。冷ややかで距離のある、ビジネスライクな声。
私は震える足で、椅子に腰かけた。
彼も向かいの席に座る。そして、私の履歴書に目を落とした。
「高嶺紗良、二十四歳。大学中退。現在は、派遣社員とアルバイトを掛け持ち」
淡々と読み上げる声。
「中退の理由は?」
「……家庭の事情です」
「具体的には?」
彼の鋭い眼光が、私を捉える。その瞳の奥には、あの夜の優しさはない。
「父が病気で入院し、治療費が必要になったため、働く必要がありました」
「そうか」
彼は何も言わず、また履歴書に目を落とす。
沈黙が、重く部屋を支配する。
「志望動機は?」
「御社の急成長と、社員を大切にする企業理念に惹かれました。また、家族の医療費補助制度があると伺い、ぜひ働かせていただきたいと思いました」
正直に答えると、彼がペンを置いた。
「では、質問を変えよう」
「はい」
「あなたは――」
彼が言葉を切る。品定めをするような冷ややかな圧が、私に注がれる。
「あなたは、なぜこの仕事に就きたいのか。金のためか? それとも、他に理由があるのか?」
その問いに、私は真っ直ぐ彼を見つめた。
「両方です」
「両方?」
「はい。父の治療費を稼ぐことも大切です。だけど、それだけじゃありません」
彼が、僅かに目を細める。
「私は、自分の力で立ち上がりたいんです。何もかも失って、惨めで、誰にも必要とされない日々でした。でも――」
あの夜のことが、脳裏をよぎった。
「でも、もう一度頑張りたいと思えたんです。だから、この機会を活かして、自分の価値を証明したい」
彼の視線が、私に注がれる。
長い沈黙。
やがて、彼が口を開いた。