冷徹CEOと、一夜から始まる溺愛契約

「まず、呼び方だ」

手を差し出される。

「俺のことは『湊』と呼んでくれ。『さん』は要らない」

私は、その手を取って立ち上がる。

「お前のことは『紗良』と呼ばせてもらう」

「え、でも……」

相手は会社の社長で、私の雇用主なのに。

湊さんが、私の腰にそっと手を回す。

「『桐生さん』では、夫婦に見えないだろう?」

心臓の音が、聞こえそうなほど近い。

「試しに、呼んでみろ」

「み……湊」

声が震える。名前を呼ぶだけで、こんなに緊張するなんて。

「いい」

湊が、満足げに笑みを浮かべる。

「もう一度」

「湊……」

名前だけを呼ぶ。

その瞬間、不思議な感覚に襲われた。

距離が縮まったような。いや、元から近かったものが、ようやく形になったような。

「いい声だ。何度でも聞きたくなる」

その言葉に、顔が――いや、全身が熱くなる。

湊が、私の手を取った。

「では、明日から準備を始める」

「準備?」

「まずは、指輪を選びに行く」

「指輪!?」

「結婚指輪だ。人前で指輪がないと、不自然だからな」

私は、ようやく現実を実感する。

私、本当にこの人と……結婚するんだ。

「それから、お前の引っ越しの準備も始めてもらう」

「引っ越し……」

そうだ。私は、湊のマンションに住むことになる。
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