冷徹CEOと、一夜から始まる溺愛契約
扉を開けると、ドアベルがカランと鳴る。
店内は薄暗く、カウンターに数人の客がいるだけだった。
「いらっしゃいませ」
バーテンダーが静かに迎えてくれる。私は、震える足でカウンターの端に座った。
「あの……カクテルを、何か」
「かしこまりました」
バーテンダーが無言でシェーカーを振る音だけが響く。
やがて、琥珀色の液体が注がれたグラスが目の前に置かれた。
一口飲むと、喉が焼けるように熱い。でも、胸の痛みは消えない。
「もう一杯」
飲んでも飲んでも、この虚しさは埋まらない。
就職できない焦り。父を助けられない無力感。何もかも失った惨めさ。
すべてが、私を押し潰そうとしていた。
「もう一杯……」
四杯目のグラスに手を伸ばそうとした、その瞬間――。
長い指が、私の手首を掴んだ。
「それ以上は、体に毒だ」
低く、有無を言わさぬ声。
驚いて顔を上げると、見知らぬ男性が氷のような眼差しで私を見下ろしていた。
こんな人、見たことがない。
年齢は、三十歳前後だろうか?
漆黒のスーツに身を包んだ長身。非の打ち所がない着こなしは、育ちの良さと確固たる地位を物語っている。
切れ長の目は冷ややかで、整いすぎた顔立ちは、まるで美術館に飾られた彫刻のよう。
けれど、それ以上に圧倒されたのは――その存在感。
周囲の空気が、この人を中心に静止しているような錯覚さえ覚える。
「あなたに……何の関係が」
「関係ある」
彼は私の手首を掴んだまま、バーテンダーに視線を向けた。