冷徹CEOと、一夜から始まる溺愛契約

部屋に戻ると、膝から力が抜けた。

ベッドに倒れ込み、私は左手を見つめる。

ピンクダイヤモンドが、柔らかく輝いている。

月明かりを受けて、桜色の光が部屋を照らす。

「私の指輪……」

小さく呟く。

半年後には、外さなければならない。

契約が終われば、この指輪も返さなければならない。

これは、期限付きの幸せなんだ。

私は指輪を外そうとして、手を止めた。

金属の冷たさではなく、彼の体温がまだ残っているような錯覚に陥る。

外せない。外したくない。

どうして? これは、ただの契約の証なのに。

湊の言葉が、心の中で繰り返される。

『お前は、この指輪を外さないだろう。俺が、離さないからだ』

『お前の全てが欲しい。時間も、笑顔も、すべて俺だけに向けてほしい』

あの真剣な眼差し。あの切実な声。

本当に、ぜんぶ演技なんだろうか。

それとも――。

いや、まだ早い。

これはビジネス。お父さんの医療費のための契約。

そう自分に言い聞かせる。

だけど、心はもう、嘘をつけなくなっていた。

一つだけ確かなのは、この指輪の重みを、すでに愛おしく感じてしまっているということ。

そして、その熱を与えてくれた彼を――もっと知りたいと、願ってしまっていること。

「……まさか、私」

喉元まで出かかった言葉を、飲み込んだ。

認めたくない。もし、この胸のざわめきが『恋』に似た何かの始まりだとしたら。

半年後、契約が解けたとき、私はきっと立ち直れなくなる。

だから、今は――。

「おやすみなさい、湊」

小さく呟く。

すると、応えるように、指輪が月明かりを受けて優しく輝いた。

明日からは、引っ越しの準備。

湊との新しい生活が、いよいよ始まる。
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