冷徹CEOと、一夜から始まる溺愛契約
入籍から五日後。
十二月二十日、土曜日の朝。私は湊のタワーマンション最上階の前に立っていた。
引っ越し業者が荷物を運び込む音が、廊下に響いている。
といっても、私の荷物は段ボール箱が五つだけ。それだけが、私のすべてだった。
かつては、もっとたくさんのものを持っていた。
服も、本も、思い出の品も。だけど、父の会社が倒産して、すべてを失った。
今、私の手元に残っているのは――本当に大切なものだけ。
母の形見のネックレスと、わずかな衣類と、思い出の写真。
それでも、いいんだ。ここから、新しい人生が始まる。
そう思うと、不思議と前向きな気持ちになれた。
「紗良」
振り返ると、そこには見慣れた背の高い人影があった。仕事の途中で抜けてきたのか、スーツ姿のままだ。
「わざわざ、来てくれたんですか?」
「当然だ」
湊が、私の肩を包み込むように抱き寄せた。その手の温もりが、コート越しにも伝わってくる。
「お前の引っ越しだからな。一緒に見届けたい」
そんなこと言われたら、鼻の奥がツンとしてしまう。
「中に入ろう。寒いだろう」
湊がドアを開けた瞬間――私は、息を呑んだ。