冷徹CEOと、一夜から始まる溺愛契約

「……紗良」

初めて、名前を呼ばれる。その一言で、心がほどけてしまった。

彼は慈しむように、私のコートを脱がせてくれる。

コートが肩から外れると同時に、冷えた空気と彼の体温が入れ替わった。

近い。思っていた以上に、彼は大きかった。

彼が、私の頬に手を添える。

「見惚れるほど、美しい」

その吐息混じりの言葉に、顔が熱くなる。

「そんな……私なんか」

「嘘じゃない」

彼の声が、一段と低くなる。

「お前以外、何も見えない」

その瞳は真剣で、私以外の何も映していないように感じられた。

冷え切っていた胸の奥に、灯火が宿る。

明日には消えてしまう夢だとわかっているのに、その甘い言葉を信じたいと願う自分を止められなかった。

「紗良……」

次の瞬間、唇が重なった。

確かめ合うような、ゆっくりとした口づけ。

こんなに丁寧に、大切にキスされたことがあっただろうか。

婚約者とのキスは、いつも一方的で冷たかった。愛されている実感なんて一度もなかった。

彼にとって私は、家柄というラベルに付随する「付属品」でしかなかったのだから。
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