隣にいる理由〜選ばれるはずのなかった私が、あなたの妻になるまで〜
 ホテルの駐車場へ向かうと、先日私を待ち伏せしていた高級車が停車している。どうやらこれは、彼の個人所有の車のようだ。
 こんな高級車にまた乗車する機会があろうとは思ってもみなかった。前回は緊張で乗り心地などを味わう余裕なんてなかったけれど……
 シートにヒーターが内蔵されているのか、じんわりと熱が伝わってくる。
 それまでの緊張が、ヒーターの熱でじんわりと溶かされていくような感じがした。

 車で10分ほど走らせた場所に、スーパーがあった。
 私たちはカートに乗せたかごの中に、食材を入れていく。
 米、レバー、ほうれん草のほかにも豆腐や味噌、日常使いするような食材も一緒に購入した。
 野菜もカット野菜ではなくキャベツを半玉、ニンジンや玉ねぎ、ジャガイモなどの日持ちする根菜類もかごの中に入れる。
 明日の昼までの三食分を作らなければならないので、肉だけでなく魚も冷凍保存が利くものを購入し、遼さんが精算を済ませた。
 
 重い荷物を軽々と持つ姿を見て、改めて遼さんは男の人なんだと思った。

 ホテルに戻り、私は早速調理に取り掛かる。
 遼さんのご厚意で、私もここで夕食を済ませることになり、二人分の料理をする。

 おかずもまとめて作るため夕食にありつけるまでに少し時間を要したけれど、その間に遼さんは仕事を片付けるとのことだったので、私も料理に集中できた。
 完成したのは味噌汁、レバニラ炒め、卵焼き、ほうれん草のおひたしだ。明日の朝用に魚を焼いて、卵焼きの残りと味噌汁の残りを片付けてもらう。明日の昼用に、煮物も作った。

「俺が仕事している間に、これだけの品数を作れるなんてすごい……。薫は手際がいいんだな」

 遼さんは、テーブルの上に並べられたお皿とキッチンにある明日用のおかずを見て驚いている。
 
「簡単なものばかりなので、褒められると恥ずかしいです」

 母が仕事に集中できるよう、小学校の調理実習でごはんの作り方を教わってから、動画などを見よう見まねで料理してきた。だからほとんどが自己流である。
 それまでは母のため、自分のための手料理だった。しかし、こうして喜んでくれる人がいると照れくさいけれど素直に嬉しい。

「味付けは薄味を心掛けていますが、足りなかったらお好みで調味料を加えてください」

 そう言って私はテーブルの上に醤油、塩などを並べた。

「わかった、ありがとう。じゃあいただきます」

 遼さんは席に着くと、手を合わせていただきますをして料理に箸をつけた。

「うん、うまい。薄味にすると、思っていたより素材の味がしっかりするんだな」

 炒め物はシンプルな塩コショウで味付けをしているけれど、少しだけ量を控えめにしている。
 味が濃いと箸も進むけれど、外食はほとんどが味の濃いものが多いので、せめて家庭料理は薄味で身体を労わろうと意識している。

「味が物足りないようでしたら、遠慮なく調味料使ってくださいね」

 私が目の前に座っていると、どうしても気を遣ってしまうのはわかっている。実際、若い人だと薄味は物足りないだろうから、栄養管理を任されたとはいえ無理はしてほしくない。
 
「ああ、ありがとう。でも、身体のことを考えたらこのくらいがいいのかもな……」

 それまでが不健康な食事内容だっただけに、私の手料理に口を挟むつもりはないようだ。
 その後は黙々と箸を進め、私が食事を終える前に綺麗に完食されていた。

「ありがとう。この調子だと本当に健康になれそうだ」

「そう言っていただけて良かったです」

 私も食事を済ませると、二人分の食器を洗った。
 遼さんはこの後もまだ少し仕事が残っているとのことで、私は自宅へ帰ると伝え、荷物をまとめていると――

「待って、家まで送る」
 
 奥の部屋から貴重品などを入れたバッグを手にした遼さんがやって来た。

「これから毎日、ここに寄るせいで帰宅が遅くなるんだ。それくらいさせて」

 遼さんの目力と圧が、どうやっても断れる空気ではない。
 私は素直にその言葉に従った。
 
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