隣にいる理由〜選ばれるはずのなかった私が、あなたの妻になるまで〜
 私の育った家庭環境のことも調べ上げられているのだ。このことは、きっと遼さんも知っているのだろう。
 その上で、神宮寺さんは私を貶めるような発言をしなかったし、肩入れするような態度でもなかった。あくまで中立的な立場の態度だった。
 どこまでも公正な人だ。
 家柄はもちろんのことだけど、人柄にしたって、私があの人に勝てるわけがない。

「契約とはいえ、本当に遼さんのお相手は、私でよかったんですか……?」
 
 私の言葉に、遼さんの表情が固まった。

「会社の経営状況のことは、正直言って私にはわかりません。でも、会社を支えるためにも伴侶になる方は、それなりの家の方のほうがいいのではないかと、神宮寺さんのお話を聞いて思いました。……うちは、両親が早くに離婚して母子家庭です。遼さんの後ろ盾になれるような家庭ではありません」

 言葉を続ける私に、遼さんは何も言い返さない。いや、言い返せないのだ。
 私には親の敷いたレールを歩む人生を送りたくないと言ってみたものの、実際に私の存在が親戚一同に知れ渡り、こうやって身辺調査までされてわかった事実に、今さら引っ込みがつかなくなっているだけだ。

「たしかに、このまま神宮寺さんと結婚されたら、それこそ親の敷いたレールの上から一生降りられないのはわかります。でももし、神宮寺さんときちんとお見合いなどを経て人柄を知って、恋愛に発展する可能性もあるんじゃないかって、今日彼女とお会いして思ったんです。私は彼女と初対面でしたが、人を色眼鏡で見るような女性ではなかったです。素敵な人だと思いました……」

 遼さんは、苦悩の表情を浮かべている。
 きっと彼の中で、会社の中での立ち位置をしっかりと築き上げたい思いと、自分の意思で結婚相手を選びたい、その思いが渦巻いている。

 私は彼に、自分の意思を貫いてほしいと思う気持ちがある。けれど、私との関係は契約上の恋人なのだから、最終的に私を選んでくれるとは到底思えないのだ。

「薫が重荷に思っていることは充分わかった。――それでも俺は、薫とのこの関係、やめたくない」

 この言葉が、彼の口からこぼれ落ちた。
 きっとこれは本心だ。

 でも、彼を取り巻く環境は、あまりにも私と違いすぎることを痛感せざるを得なかった。
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