隣にいる理由〜選ばれるはずのなかった私が、あなたの妻になるまで〜
このままではダメだ。この人は私の作る料理で体調が回復すれば、契約恋人が認められて政略結婚が回避できたら、前のように私の手の届かない人になるんだ。
「薫……、大丈夫か?」
遼さんの声で我に返った私は、「大丈夫」と返して、器の中に残る鯛めしに再び箸をつける。
食事が終わり、いつものように遼さんがコーヒーを淹れてくれる。私はそれに手をつけられず、マグカップから立ち上がる湯気を眺めていた。
コーヒーのいい香りが部屋の中を漂っている。
コーヒーの匂いで遼さんの匂いが消えればいいのに、私が黙っているせいで、彼から発せられる心配の匂いがますます強くなる。
原因を作っているのは私のこの態度のせいだ。
きちんと理由を説明しなければと思いながらも、うまく言葉が出るか自信がない。
私が言葉を発するのを、遼さんは待ってくれている。
「今日、何かあった……?」
どれくらい沈黙が続いただろう。
しびれを切らした遼さんが、とうとう口を開いた。
私はその言葉にうなずくだけで、まだ返事ができない。
自分の中に芽生えた遼さんへの恋心と、彼の置かれている立場、契約恋人終了後の私――
どう考えても、悲観的な未来しか見えないのだ。
「今日、神宮寺浩子さんとお会いしました」
考えに考えて、やっと口から出た言葉がこれだった。
その言葉に、遼さんの目つきが鋭くなる。
「神宮寺さんが!? 薫に会いに来たのか?」
遼さんの問いに、私はうなずく。
「神宮寺さんが、遼さんの婚約者候補の女性だったんですね。私、全然知らなくて……」
神宮寺グループの百貨店は全国規模の大企業だ。そんな創業者一族のご令嬢の恋のライバルが私なんて、誰がどう見てもおかしいし、神田家一族はもちろんのこと、世間一般だってどちらを選ぶかと問われたら迷わず神宮寺さんを選ぶに決まっている。
私の考えていることが顔に出ていたのだろう、遼さんはコーヒーを飲むとマグカップをテーブルの上に置き、改めて私に向き合った。
「彼女が薫に会いに行ったってことは、会社のこととか色々言われたんだろう……」
遼さんの言葉にうなずきながらも、私は思っていることを口にした。
「はい。――神田食品の経営状況のこと、後ろ盾のない一般家庭の……、母子家庭育ちの私について、本当にこのまま結婚するとしたら、大変だということも」
「薫……、大丈夫か?」
遼さんの声で我に返った私は、「大丈夫」と返して、器の中に残る鯛めしに再び箸をつける。
食事が終わり、いつものように遼さんがコーヒーを淹れてくれる。私はそれに手をつけられず、マグカップから立ち上がる湯気を眺めていた。
コーヒーのいい香りが部屋の中を漂っている。
コーヒーの匂いで遼さんの匂いが消えればいいのに、私が黙っているせいで、彼から発せられる心配の匂いがますます強くなる。
原因を作っているのは私のこの態度のせいだ。
きちんと理由を説明しなければと思いながらも、うまく言葉が出るか自信がない。
私が言葉を発するのを、遼さんは待ってくれている。
「今日、何かあった……?」
どれくらい沈黙が続いただろう。
しびれを切らした遼さんが、とうとう口を開いた。
私はその言葉にうなずくだけで、まだ返事ができない。
自分の中に芽生えた遼さんへの恋心と、彼の置かれている立場、契約恋人終了後の私――
どう考えても、悲観的な未来しか見えないのだ。
「今日、神宮寺浩子さんとお会いしました」
考えに考えて、やっと口から出た言葉がこれだった。
その言葉に、遼さんの目つきが鋭くなる。
「神宮寺さんが!? 薫に会いに来たのか?」
遼さんの問いに、私はうなずく。
「神宮寺さんが、遼さんの婚約者候補の女性だったんですね。私、全然知らなくて……」
神宮寺グループの百貨店は全国規模の大企業だ。そんな創業者一族のご令嬢の恋のライバルが私なんて、誰がどう見てもおかしいし、神田家一族はもちろんのこと、世間一般だってどちらを選ぶかと問われたら迷わず神宮寺さんを選ぶに決まっている。
私の考えていることが顔に出ていたのだろう、遼さんはコーヒーを飲むとマグカップをテーブルの上に置き、改めて私に向き合った。
「彼女が薫に会いに行ったってことは、会社のこととか色々言われたんだろう……」
遼さんの言葉にうなずきながらも、私は思っていることを口にした。
「はい。――神田食品の経営状況のこと、後ろ盾のない一般家庭の……、母子家庭育ちの私について、本当にこのまま結婚するとしたら、大変だということも」