恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
 一方、真帆と料亭の中庭で会話を交わしていた充輝は、長い沈黙を保った末にようやく口を開いた。

「――いずれは伝えなければならないことなので言わせていただきますが……」

 一旦区切り、真っ直ぐに真帆を見据えた充輝は、

「すみません……今回の件は父が勝手に話を進めているだけで、僕の気持ちとしては、あなたと一緒にはなれません」

 自身の想いをハッキリと口にした。

 突然伝えられた真帆は驚いているのか充輝に視線を向けたまま、何も答えない。

「……自分には心に決めた人がいるので、他の女性と一緒になることは出来ません、本当にすみません」

 頭を下げてひたすら謝罪の言葉を口にする充輝を前にした真帆は、

「充輝さんにそういった女性がいることは伺っていますわ。その上で、私は縁談を受けました。貴方に想い人がいても私は構いませんから、どうか前向きに考えてください」

 さも当然のようにそう答えたのだ。

 それには流石の充輝も言葉を失った。

「……勿論、聞いた時はショックでした。でも、恋愛と結婚は別物ですよね? 結婚はお互いに利益のある方が絶対に良いです。恋愛感情だけでは、世の中渡ってはいけません。政略結婚に納得がいかないお気持ちも分からなくはないですけど……これからのことをきちんと見据えて決断すべきことだと思いますよ」

 真帆は政略結婚に前向きで尚且つ充輝に惹かれている。

 こうなると彼女に何を言っても父親同様無駄だと悟った充輝は、

「…………冷えてきましたね。もうそろそろ戻りましょう」

 それ以上この件について真帆と話をすることはせず、父親たちの元へ戻ることにした。

 その後、上機嫌な父親たちを連れて店を出た充輝と真帆は別れ際、

「それでは充輝さん、ご連絡、お待ちしておりますね」

 笑顔で連絡を待つと言った真帆を前にどう反応すべきか分からない充輝は特に何も答えることなく会釈をして彼女たちの車を見送った。

 そして、既に車に乗っていた父親の元へ向かい、

「こんなの、あんまりだろ!? 悪いけど俺は、この話を受けるつもりは無い。何を言われても、絶対に」

 抑えていた怒りをぶつけてから、自身の車へ向かって歩き出した。
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