恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
 夜風が少し冷たくなってきた公園内。

 ベンチに大輔と並んで座る来海の胸の奥はまだザワついたままだった。

「本当に、大丈夫ですか?」

 穏やかな声音で尋ねながら大輔は来海の横顔を覗き込む。

「……はい。本当にもう、大丈夫です」

 そう答えながらも視線は足元へ落ちたままの来海に大輔は話を始めた。

「やっぱり、羽柴さんのこと……ですよね」

 充輝の名前に来海の肩が揺れる。

「え……?」
「ネットニュースにあった、縁談の話……NRGグローバルホールディングスの令嬢と、って」

 核心を突かれた来海は言葉を発することが出来ずに黙り込む。

「今日の飲み会、羽柴さんが来なかったでしょう? 社長に呼び出されたって聞きましたけど……」

 大輔はそこで言葉を区切ると、意味ありげに微笑む。

「もしかして、顔合わせだったんじゃないですか?」
「……っ」

 否定したいのに上手く言葉が出ない。

 実は大輔は、今日充輝が相手と顔合わせを行っていることを知っていた。

 勿論、ネットニュースになる前からNRGグローバルホールディングスと提携することも、その令嬢である真帆が充輝の相手であることも。

 全て知った上で、来海の心を揺さぶっていく。

「向坂さん」

 大輔はそっと来海の手に触れた。

「辛いなら、無理しなくていいんですよ。相手は大企業の令嬢です。結婚は恋愛と別だって考える人もいますし……」

 まるで慰めるようでいて確実に心を抉る言葉を放っていく。

 そんな大輔の手を払い除けることすら出来ないくらいショックを受ける来海は俯いたまま小さく息を吸い込んだ、その時――来海のバッグの中でスマートフォンが震え、画面に表示された名前を見た来海は一瞬躊躇いながらも通話ボタンを押した。
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