恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
 夜の公園に緊張が張り詰める中、スマートフォンの画面を突きつけられた充輝は数秒だけ記事を見つめ、それからゆっくりと視線を大輔へ向けた。

「……それ、俺も今日初めて知りました。父たちが勝手に外へ流した話で、俺は一切了承していない」

 そんな充輝の言葉に来海の胸が、どくんと跳ねる。

「……そうですか。でも、会社の今後が関わっている話ですよね? NRGグローバルホールディングスとの提携ともなれば……簡単な問題ではないでしょう」

 大輔の言葉は正論で、それは充輝も来海もよく理解していた。

 けれど充輝は一瞬も揺れなかった。

「そうかもしれません。でも、だからといって政略結婚をしていい理由にはならない。俺が誰と一緒になるかは俺自身が決める、それだけです」

 そして一歩、大輔に近づいた。

「とにかく――縁談について、真白さんには関係ない話ですよね?」
「……そうですね、失礼しました。それでは俺はこれで」

 これ以上話は出来ないことを悟った大輔はそう言って二人に背を向けると、振り返ることなく公園を出て行った。

 残されたの来海と充輝の間に、夜風が静かに吹き抜ける。

 来海は俯いたまま動けずにいて、充輝はそんな彼女の前に立ち、柔らかく声を落とした。

「……送るよ」
「……うん、ありがとう」

 それだけ会話を交わした二人は並んで車へ向かい、乗り込んだ車内でも暫く沈黙に包まれたまま。

 五分程走った所でふいに来海がかすれた声で問いかけた。

「……今日は、顔合わせ……だったの?」
「……うん」

 しかしそれ以上の言葉は続かず、再び訪れた沈黙がとても重く感じていく。

 次の交差点を曲がれば来海の自宅アパートへ続く道なのだけれど、何故か充輝はウインカーを出さず、ふっと進路を変えた。

「……え?」

 見慣れた道から外れていく車に来海が顔を上げる。

「どこに、行くの?」

 充輝の自宅方向とも違う進行方向を疑問に思った来海が問い掛けると、

「このまま二人で――」

 そこで一瞬言葉を飲み込んだ充輝は真っ直ぐ前を見つめたまま、

「どこか遠くへ、出掛けようか」

 ポツリと呟くように、口にした。
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