恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
「どこか、って……どこに?」

 来海に問いかけられても充輝はすぐに答えなかった。

 フロントガラス越しに二人の横顔を淡く照らしては消えていき、静かな車内にエンジン音だけが低く響いていく。

 やがて充輝が小さく息を吐いて口を開く。

「……明日から三連休でしょ?」
「うん、そうだけど……」

 戸惑うように頷く来海に充輝はハンドルを握ったまま視線を前へ向けた。

「……逃げる訳じゃないけどさ、少しだけでいい、誰にも邪魔されないところで、来海と二人きりで過ごしたいと思ったんだ」

 そんな言葉が紡がれ一瞬の沈黙の後、来海はそっと答えた。

「……私も、充輝と一緒に過ごしたい」

 その言葉を聞いた充輝の口元が僅かに緩む。

「じゃあ決まり。行こっか」

 そう言うと車はそのまま速度を上げて高速道路へと入って行く。

 暫く走り続けた後、県外へ着いて高速を降りると、街外れにぽつりと灯る小さなホテルの明かりが見えてきた。

 時刻は午前一時を過ぎ。

「今日はここで休もうか」

 そう言って充輝は迷いなく車を駐車場へ滑り込ませた。

 建物へ入り、タッチパネルを操作しながら来海を振り返る。

「……ここでいい?」
「うん」

 尋ねる声はどこか柔らかで、来海の表情も緩んでいく。

 しかし、急に出掛けることになり、深夜に県外まで来て、そのまま街外れのラブホテルに泊まる——そんなあまりに急展開な状況に来海は緊張しているのか、部屋に着いても落ち着かない様子のまま立ち尽くしていた。

「来海、おいで」

 充輝はスーツを脱ぎ、Yシャツ姿のままベッドの縁に腰掛けると手招きして来海を呼ぶ。

 呼ばれた来海は静かに歩み寄り隣に座ろうとしたのだがその瞬間、手を引かれて気付けば充輝の脚の間へと座らされていた。
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