恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
他には何も要らないから
 連休初日の夜は、まだ時間がいくらでもあると思っていたけれど、気が付けばその休日も終わりに近付いていた。

 そんな連休最終日の夜、二人は来海の部屋で、並んでソファーに座っていた。

 テレビはついているもののどちらも見てはおらず、ただ隣にいる温もりだけを感じながら言葉少なに時間を過ごしていた。

 明日、充輝は父親にもう一度自分の意思を告げ、そのまま会社へ辞表を出す。

 先方の縁談も正式に断り、その後は知り合いを頼って九州へ向かう。

 一方、来海はいつも通り仕事へ行くので、ここで別れれば暫く会えない。

 それは分かっていたはずだった。

(……いざこの時が来ると、こんなに辛いなんて)

 来海が膝の上で手をぎゅっと握り締めると、指に嵌めた指輪がかすかに光る。

 待つと約束したものの、やはり共に着いて行きたいと思ってしまう。

 その時、隣から低い声が落ちた。

「……そろそろ帰るよ」

 その一言で来海の心は大きく揺れた。

「……え」

 顔を上げると充輝はわずかに視線を逸らしている。

「これ以上いたら……多分、帰れなくなるからさ……」

 苦笑にも似た困った表情に来海の胸が締め付けられた。

「……充輝」

 震えるような声で名前を呼ばれた充輝が振り返った瞬間、来海の瞳からぽろりと涙が零れ落ちた。

「来海……?」

 驚いたような声に来海は慌てて目元を拭う。

「……ごめ……っ」

 泣くのは違う、そう分かっているからこそ必死に涙を拭うも、

「待つって……言ったけど……っ、やっぱり……寂しい……」

 一度流れ出た涙は止まらなかった。
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