恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
 翌朝、柔らかな光がカーテンの隙間から差し込んで部屋を淡く照らしていき、来海はゆっくりと瞼を開く。

「……ん……」

 まだ温もりの残るシーツに頬を寄せながら隣へ手を伸ばしたけれど、

「……あれ……?」

 隣に居るはずの充輝の姿は無い。

 慌てて身体を起こした来海は周囲を見回す。

「充輝……?」

 呼んでみても返事はなく、人の気配はどこにもなかった。

 その代わり、ベッドサイドのテーブルに一枚の紙が置かれているのに気付く。

「……これ……」

 嫌な予感を抱きながら来海は震える指でそれを手に取った。

 そこに書かれていた文字は充輝のものだった。

【来海へ。
 顔を合わせたら、きっと離れがたくなると思ったから黙って出ていく形になってしまって、ごめん。
 暫くは連絡も極力控える。
 中途半端に声を聞いたら、俺の方がきっと耐えられなくなるから。
 自分勝手で本当にごめん。
一日でも早く迎えに行く。
 だから、それまで待っていてほしい。】

 読み終えた瞬間、来海の視界が滲んだ。

「……充輝……」

 ぽろりと涙が零れ、胸の奥がきゅっと締め付けられた。

 昨夜あれほど抱き締めてくれた温もりが、もうここには無い。

 それだけで、こんなにも心細いけれど、

「……大丈夫」

 来海は小さく呟きながら、左薬指に光る指輪を見る。

「充輝は……約束、守る人だもんね」

 涙を拭いながらゆっくり息を吸い、

「だから……待つよ……必ず、迎えに来てね……」

 手紙を胸元で握り締めながら呟いた。
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