恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
 その様子を見ていた大輔は来海が何かを隠していることに気付いていたけれど、あえて問い詰めることはしなかった。

 昼過ぎた頃、大きな噂が流れ始める。

 NRGグローバルホールディングスとの契約が白紙になるかもしれない。

 そんな話が会社全体に広がっていく同時に、充輝が出社していない理由についても憶測が飛び交っていく。

「縁談が原因じゃないか?」
「社長に反旗を翻したって話もあるらしいぞ」

 真偽不明の噂は時間が経つほど大きく膨らんでいた。

 来海はそれを耳にするたびに胸の奥が痛んだけれど表情には一切出さず、まるで自分には関係のない話であるかのように黙々と仕事を続けていた。

 そして終業時間が近づいた頃、社長室で父親は椅子にもたれながら目を細めた。

「……まだ見つからないのか?」
「申し訳ございません。手は尽くしておりますが、現在も居場所は――」
「もういい。真白を呼べ」
「……真白様をですか?」
「ああ」
「充輝の女は恐らく充輝の居場所を知っているはずだが、聞いたところで素直に吐くとは思えない。だから真白を使って居場所を聞き出させる。アイツは結局充輝と女を引き離すことに失敗したんだ、せめてこれくらいは役に立ってもらわねば意味無いだろう」

 その言葉に是枝は思わず息を呑んだ。

「さっさと真白を連れて来い」
「……承知しました」

 深く一礼すると是枝は急いでシステム課へ向かって行く。

 そして仕事をしていた大輔の前に立つと静かに声を掛けた。

「真白様」
「はい?」
「社長がお呼びです」

 その言葉に大輔は勿論周囲も驚き、ざわめきが起こった。

「……分かりました」

 大輔は席を立つと落ち着いた様子で是枝とシステム課を出て行く。

 二人が出て行った瞬間、

「羽柴くんの代わり?」
「真白さんって社長からも認められてるっぽいし、そうなのかも」

 残された社員たちの間で更なる憶測が広がっていった。
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