恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
 一方その頃充輝は九州の地を訪れていた。

 知人の仕事終わりに会う約束をしていた為、昼間はホテルで時間を潰し、夕方になると指定されたカフェバーへと足を運ぶ。

「お久しぶりです、裕太(ゆうた)さん」
「久しぶりだな充輝」

 彼は駒橋(こまはし) 裕太。

 大学で同じサークルに所属していた二つ上の先輩で、IT企業の社長として会社を立ち上げ、数十人の社員を抱えている。

「すみません、わざわざ時間を作っていただいて」
「良いって。それより――」

 グラスを手に取りながら裕太は興味深そうに目を細めた。

「どうしたんだよ、こんなところまで」

 その問いに充輝は一度息を整えてから静かに口を開くと、

「実は――」

 これまでのこと全てを話した。

 縁談のこと、会社のこと、来海のこと。

 充輝の話を聞き終えた裕太はグラスを傾けながら小さく呟いた。

「……なるほどな。父親と分かり合えなくて全部捨ててきたってわけか」
「……はい」

 その言葉に充輝は真っ直ぐ視線を向けて頷いた。

 そして、姿勢を正して改めて口を開く。

「裕太さんにお願いがあります……俺を雇っていただけませんか? 彼女と生きていく為に……力を貸して欲しいんです」

 その言葉を受けた裕太はわずかに目を見開くと、小さく笑った。

「いいぞ」
「……え?」
「お前なら大歓迎だ」

 あまりにもあっさりとした承諾に充輝は思わず言葉を失うけれど、裕太の言葉には続きがあった。

「ただし――条件がある」
「条件、ですか?」
「ああ……今の話を聞く限り、親父さんと和解するのは……正直難しいだろうな」
「……はい」
「でもな、そんな逃げるように出てきたままで本当にいいのか?」

 その一言が充輝の胸に深く刺さる中、裕太は更に問いかけた。
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